第17話 究極魔法


「ぅぅ」


まだ、息はある!

だが、多量の血は流している。

このままでは最悪の結果は免れない!


「なにこれ? なんで、そこの方は腕が」


振り向くとそこには千花さんがいた。

あまり、刺激的な場面を見せたくなかったので、離れるように言ったが気になって見にきてしまったようだ。


「すぐに救急車と警察を呼びます。事件現場を荒らすわけにはいきません」


近藤こんどう警部に言われたことを思い出す。

事件現場から犯人への足跡を探さなくてはいけない。


「ねえ、今から救急車呼んで間に合うの?」


千花さんの言葉に俺は目を逸らす。

浅い息が今にも途切れそうだ。

もう、時間はないだろう。


「無理、です」


その言葉に千花さんが息を呑む。


「魔法使いさんは、助けて、あげないの、ですか?」


こいつはずるい。

これでは、知らないふりはできない。

他人を見殺しにできない。


「ねえ、優希を助けられるの? お願い助けて」


千花さんの言葉を聞いていた女の子が俺に泣きながら頭を下げる。

ぐしゃぐしゃに涙を流して、俺の服を掴む。


「親友を助けて、なんでもするから」


溜め息を溢して口にする。


「回復魔法 発動!!」


腕を失った女の子は流れていた血が止まる。

しかし、顔は悪いまま。

失った腕もそのままだ。


「ダメ、か?」


その時、頭の中で理解する。

そうか、究極魔法って、そういうことか。


「究極魔法へ進化! 治癒魔法 発動!」


俺の中の何かがごっそり抜かれていく。

力が抜けて、立っていられなくなる。


「うそ」


「さすが、魔法使いさんです」


二人の声に魔法をかけた女の子を見ると顔色はもちろん、失った腕も元通りになった彼女がそこにいた。

す、すごいな。

だが、俺は力が入らずに倒れる。


「おい」


誰かに支えられる。

見上げると黒服の大男がいた。


「親父」


「何があった?」


血まみれになった女の子に、女子トイレに倒れかけた俺がいれば事情を知りたくもなるだろ。


「ごめん、力が入らない」


「私が代わりに話します」


「お嬢」


千花さんが親父に代わりに経緯を話す。

その内容に親父は眉をひそめた。


「そうか、俺はお前は人との関わりを、嫌っているように思っていたが」


「すみません」


「面倒ごとに足を突っ込んだものだ」


「私が、お願いしたの」


親父は倒れた女の子を抱えて、俺を背負う。


「でも、命には変えられない。よくやった」


「親父」


「ここは俺らのシマだ。後は任せろ」


「ありがとう」


親父の背中に安心して俺は意識を手放した。


次に目を覚ますといつかのビルのベッドの中だった。

今までのは夢だったのだろうか?


「目を覚ましましたか」


横を見るとそこには親父がいた。

その表情は険しい、緊張してしまう。


「すみません」


俺は起きあがろうとするが、うまく力が入らない。

親父は手のひらを向けて静止する。


「お前からも事情を聞きたいだ。何があった?」


「俺が知ることは少ないです。悲鳴が聞こえて、向かうと女子トイレ前に女の子が泣き崩れていて、中を見ると片腕が無くなって、血を流した女子がいました。それで、千花さんや親友っていう女の子に頼まれて魔法を」


「切られた腕はどうなってた?」


「うで? どうだったかな」


「切断面とか」


「そういえば、骨の切断面が綺麗だった。グロイ断面が見えてしまうくらいに」


だからこそ、千花さんに見せるのを躊躇った。

結局は見にきてしまったが。


「そういえば、千花さんは?」


「お嬢は休まれている。お前が倒れてから一緒に帰って来たが、精神的にくるものがあったのだろう。他の二人もとりあえず、病院に送っておいた」


別に千花さん以外はどうでもよかったが。

それよりも。


「どうしますか? このまま、千花さんを学校に通わせるのは」


「そうだな。カシラが説得はしているが、納得していないそうだ」


「学校に通いたいだけだったら転校を」


「それも、難しいかもな」


なんで、あの学校にこだわるのだろうか?

親父に聞いてもいいが、勝手に聞いてしまうのは後で千花さんに怒られるような気がしてやめておくことにした。


「学校には被害届を出させた。状態に問題はなくても、あれだけの凄惨な現場が残っている。警察も動くことになるだろう」


「犯人は捕まると思いますか?」


「今回の犯人は計画的に事件を起こした可能性が高い。実は講堂の外で数人が警備にあたっていた。今日みたいな日は外部の人間が入りやすいからな。でも、誰も悲鳴は聞いていない。それに、切断面が綺麗だったなら、切る為の器具を用意していたはずだ。そうなると、証拠も残すようなやつではないかもな」


「そうですね」


「でも、証拠や犯人を探すのはサツどもの領分だ。俺たちでは推察しか出来ん」


確かにその通りだ。

後は自分達の身を守ることに専念し「クソ!」

不機嫌な社長がドアを蹴り破って入ってきた。


「カシラ、どうしました?」


「どうしたもこうしたもあるか! サツの野郎、犯人に繋がる証拠が無いもんだから、組みが関与してんじゃねえかって、文句つけやがってきた!!」


「また、あの近藤ってやつですか?」


「そうだよ」


前から近藤警部がこの組に関わっていたのか。

病院の時も目の敵にしていたのはそのせいか。


「尊!」


「はい!」


社長は大きく息をして、感情を抑える。


「この件には手を出すなよ。猟奇的な奴なのに、異様に頭が回る。正直、関わりたくねえ。だけど、千花が通うって聞かねえ。あいつの思いも考えれば分からなくもないが」


「……つまりは?」


「変わらずだ。千花を守りながら、学校生活を送れ。だが、今以上に気合を入れろ」


社長の言葉に強く俺は頷いた。

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