俺の女神はガチャにだけ微笑む
矢石 九九華
第1話 さて、死のう
ある人は言った。
不幸の数だけ幸せがある。
気づかないところに幸せはあるんだ。
だが、俺の人生にそんなものは無かった。
俺の不幸な人生を少し振り返ろう。
俺の不幸は生まれた時から始まった。
逆子として生まれた俺はその出産に何時間もかけ生まれたのに、取り出された時にはすでに心臓が止まっていた。
なんとか、蘇生処置で息を吹き返したが、元々そんなに身体が強くない母が俺の出産に耐えられず急に死んだのだった。
だから、俺は母との記憶がない。
母は誰にでも優しく、多くの人に慕われる人だったらしい。
そんな母は俺が生まれたことで死んだ。
その事実が多くの人を俺が母を殺したと認識させた。
祖父も、祖母も、叔父も、父も、姉も、俺を恨んだ。
生後二か月。
俺の産後の定期健診に来ないのを心配に思った医師が児童相談所に連絡し、確認しに来た職員が餓死寸前の俺を見つけたのだった。
その後は児童福祉施設で暮らすことになったのだ。
だが、そこでも不幸が続いた。
二度の死の淵を経験したことからか、しばらくの間ずっと体が弱かったのだ。
いつも、咳が止まらず、苦しくて泣いていた。
咳ばかりしている俺を似たような境遇で一緒に住んでいるあいつらは「バイキン」と俺を呼んだのだ。
俺と一緒にいれば「バイキン」がうつると、誰も俺と遊んでくれなかったし、俺のご飯をとったり、殴ったりとイジメもあった。
でも、我慢するしかなかった。
生きるにはこうするしかなかった。
小学校を入学する頃には他の子のように外に出れるようになった。
だが、生まれてすぐの頃、栄養が足らなかったせいか他の奴らと比べると一回り以上体は小さかった。
「バイキン」の俺は小学校でも同じように呼ばれていた。
小学校に同じ施設の奴らも通っていたからだ。
学校の先生も俺がいじめられているのを遠巻きで見ているだけだった。
親がいない俺のことなど庇ったところで意味ないし。
俺をイジメているメンバーにはPTAの会長をしているおばさんの子供もいたからだ。
「バイキン」の俺はいつも図書室で一人本を読んでいた。
本を読んでいる間は本の世界に、この辛いことばかりの世界から逃げられたような気がしたからだ。
そんな俺は小学校中学年になる頃には「バイキン」から「オバケ」と呼ばれるようになっていたからだ。
でも、それは俺の思惑通りだった。
あいつらの目に付けば、またイジメられるからだ。
イジメは一旦は落ち着いたように思えた。
だがある日の下校途中だった。
「ちょうしのってんじゃねえよ!」
ドン!
下校途中に誰とも知らない奴らに囲まれて殴らってきたのだ
俺は逃げようとするが誰かが後ろから押して車道に突き飛ばされた。
運悪く、すぐに走ってきた車にひかれて俺は全身七か所を骨折し、右目の視力を失った。
更に不運は続いた。
俺を引いた車の運転手が雑誌の記者だったのだ。
その記者が自分の身の潔白を訴えるために、車に付けていたドライブレコーダーの動画を切り抜いた写真と「実録 小学生のイジメは殺人にまで発展!」という記事を載せたのだ。
この事により俺の小学校や施設でのイジメが世間の目に留まることになった。
世論に動かされ警察まで動き、ワイドショーにまで取りざたされる。
そして、記者の狙い通り車の事故は殺人未遂事件として扱われることになったのだ。
世間は俺を不運な少年として追っかけてくるようになり、俺は他の施設と学校に移されることになった。
中学校に上がるまで俺は腫物のように扱われ、イジメはなくなったがずっと一人ぼっちだった。
そんな中で俺は中学校になって初恋をしたのだった。
その相手はよく図書室で本を読んでいる女の子だった。
いつも真剣に恋愛小説を読んでいる彼女が綺麗で。
笑った顔がかわいくて。
その頃初めて恋愛小説を読んだ。
そして、恋愛についてある程度知識が着いた頃この思いが片思いだという事が分かった。
彼女にはイケメンのサッカー部の幼馴染がいて、そいつといる時だけ嬉しそうに笑っていたからだ。
失恋の痛みを知った。
でも、彼女が幸せならそれでいいと、そう思っていたのに。
中学二年生の終わりになる頃、彼女が突然失踪したのだ。
俺は頭の中が真っ白になった。
そして、理解したのだ。
俺がいるせいで周りが不幸になると。
俺が生まれたせいで家族は母を失い不幸になった。
俺が施設に着たせいで奴らは俺をイジメて不幸になった。
俺が好きになったせいで彼女は消えて多くの人が不幸になった。
俺は俺だから俺が不幸なのだと。
「死のう」
明日で中学を卒業する。
そうすれば施設から出ていくことになる。
でも、車にひかれた後遺症で片目を失い、体の弱い俺が何の仕事ができるのだろうか?
一人で生きていけるのか?
そんなの無理である。
せめて、誰の迷惑にならないように俺は森の奥に進んでいく。
そして、今に至る。
「ああ、俺の人生は不幸だった」
木の枝に括り付けた縄で作った輪に首を通すのだった。
…
……
………
苦しくない。
俺は苦しまずに死ねたのだろうか?
「大丈夫?」
目の前には昔テレビで見たハリ〇ッド女優も顔負けの洋風美人な女性が俺を見ていた。
ただ、こんな森の奥で背中に翼を付けてたり、白いワンピースを着ていたりコスプレをしてるなんて。
相当痛いやつだな。
「ああ、失礼な! この翼は自前です」
そういう設定なのね。
「なんで、そうなるかな」
うるさいな。
今死ぬとこなのに。
「死んじゃ駄目!」
静かにしなさい。
「なんで、私が怒られてるの?」
「で、なんですか?」
「ここで声を出すの!? てか、話進めるの!? それより、なんで自分の思考を読めるの? とか、驚くとこでしょ!? ツッコミどころ多すぎ!」
「はいはい、情緒不安定なのですね」
「もういや」
彼女は大きくため息を吐いた。
「とりあえず、首くくくるのやめてもらっていい?」
彼女に言われて思い出す。
そういえば、首をくくったままになってるな。
でも。
「この足がぷらーんてなってる感覚面白い」
「だったら、公園の鉄棒とかでやればいいでしょ!」
「俺、握力が無いからできないし」
「そんなのいいから。それより、話を聞いてもらえる?」
俺は首をくくったまま、正座のポーズをとる。
「……」
「どうぞ」
彼女は諦めて話を進める。
「あなたに「異世界転生ですか!?」
「いえ、ちが「異世界転移ですか!?」
「話聞けやコラ!!」
とうとう堪忍袋が切れてしまったようだ。
「すみません」
「なんで? 前情報と全然違うんだけど! 全然根暗じゃないじゃない! あなた漫才でもやったら」
「ボッチなので無理です」
「あっそ」
おや、疲れてしまったのかな?
でも、ちゃんと俺の目を見て話してくれる人久しぶりだし、こんなに話したのも初めてだ。
それに、こんな綺麗な人と話せるなんてテンションが上がってしまうのは仕方ないことだ。
「あ、あんた」
「あ。そういえば、思考が読めるのでしたね」
「まあ、そういうことなら、許してあげないことも、ないかな」
「寛大な人でありがとうございます」
チョロいな。
「あ!?」
「おっと」
変なことは考えられないな。
まあいいや。
これだけ誰かと面白おかしくお話ができたんだ。
もう悔いはない。
「それで、俺はどうなるのでしょうか?」
「その前にあなたの不運についてなんだけど、実は」
天使的な女性は頭を下げる。
「実は私が原因なのです」
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