第2話 変なの現る

「俺の不幸が貴方のせいとはどういう事でしょうか?」


俺の苦しかったあの日々が誰かに仕組まれていたもの?

もし本当にそうなら、許せるはずがない!

俺は縄を首から外し、天使的な何かに詰め寄る。


「あなたには先の未来で数人の命を救ってもらうことになっているのです」


「は!?」


未来で人を救う?

何言ってんだ?

それに、それが何で俺の不幸に繋がる?


「それを今説明します。これから、この世界に危機が訪れます。それは殺人ウィルスだったり、大規模なテロだったり、世界規模の戦争が原因です。ですが、あなたが助ける数人がそれを救ってくれるのです」


「はあ」


いきなり語りだしたな。

中二くせえな。

大人なんだし、卒業しろよ。


「事実です! そして、その数人を助けるにはそれこそ奇跡的な巡りあわせと、偶然が重ならないといけないのです。その大役にあなたが選ばれたのですが、あの、その」


「急に歯切れが悪いですね」


「ははは。その、ですね。そんな幸運にあなたのすべての幸せを注ぎ込んでしまい、不幸しか残らなくなってしまったといいますか。えっと、すみません」


にわかには信じられないな。

でも、俺がここで死んだら。


「人類の九割六分は死にます」


「なるほど。でも、どうでもいいです」


この世界に俺は何の未練もない。

ぶっちゃけ嫌いだ。

そんな世界がどうなろうとも、気にしない。


「ちょっと待ってください! そんなこともあろうかと、あなたには特別なスキル「ガチャ」を上げます!」


「ああ」


よくあるやつね。

なんか、色々なスキルとかもらって俺TUEEEってやるやつ。

でも、実際あんなのが必要になるのってファンタジーの中だけだろうし。

炎とか出せる人間なんて化け物でしかない。

腹の足しになるわけでもない。

力をもらっても復讐なんて今更するつもりもないし、他の人間にかかわるつもりもない。

つまりは、いらない。


「さて」


「なんで、また首を吊ろうとしてるんですか!」


「死ぬからですよ」


もうそろそろこの世界ともお別れさせてほしい。


「まって、ホントに! 一回回してみて! 特別に無料で十一連やらせてあげるから」


「なんで十一? 微妙」


「知らないんですか? 最近のガチャは十連分一度に引くと一回分多く出てくるんですよ」


天使的な何かはずいぶんと俗世的だな。

それに俺は児童福祉施設出だ。


「ゲームはおろか、スマホも持ってないので」


「ああ、そうですよね。ごめんなさい」


それにゲームとか時間の無駄だ。

それなら勉強していた方が自分の為になる。


「そんなんだから、友達もできない根暗なのですよ」


「さて、死のう」


「嘘です! すっごい、コミュニケーション力! 幸せもあれば友達百人なんて余裕でしたよ!」


「白々しい」


けど、これって彼女の言う通りにしないと話が進まないよな。


「そうですとも」


「はあ、どうすればいいんですか」


「簡単です。〈ガチャ〉って念じてもらうと二つボタンが出てきます」


言われたとおりに〈ガチャ〉と念じてみると何もない目の前の空間にタッチパネルのようなボタンが二つ現れる。

その間にはカウンターがあり0pと表示されている。


「赤い方が単発で、青い方が十一連ですね。それぞれ10pと100pで引けますよ」


「0pだけど」


「一回だけ押せるようにしてみたので引いてみてください!」


どうせ、碌なものが出るわけない。

何の期待もなしに青いボタンを押したのだった。

すると、何もなかった場所に小さな箱が十一個落ちてきたのだ。


「中身は箱に書かれたものが入ってます。ものによっては大きかったり、重かったりするので出す場所には注意してくださいね。ついでに、そのボタンと、箱状態の景品は他の人には見えないので注意してください」


「そうなんだ」


とりあえず一個拾ってみる。

そこには十万円と書かれている。

試しに開けてみると箱が煙のように消え、俺の手の中には十万円があったのだった。


「スゲー、マジックだ」


「あくまで信じないのですね。これならどうですか?」


天使的な何かが勝手に一つ箱を開ける。

先ほどと同じように煙が出るが、そこには何も残らなかった。


「失敗?」


「違います~。〈スキル〉って唱えて見て!」


「はいはい。〈スキル〉」


そう唱えると、宙に浮く透明な板が現れる。

そこには、健康Lv1 と書かれていた。

なんじゃこれ?


「なんとスキルをあなたは手に入れました! パチパチパチ! これで、弱い体を気にせずに動き回れますよ!」


「……」


うん、実感わきにくいな。


「その通りですね、チクショウ!」


「まあ、でも。これでいいんですよね」


「えっと、そうですね」


「じゃあ、お疲れ様でした」


「あ、うん。じゃあ、帰ります」


そう言って、彼女は帰っていったのだった。

九個も箱あるけど、邪魔だから端に寄せておこう。

もう一回、縄を括り付けなおして。

さて、それでは仕切り直して。

俺は首を吊ったのだった。

……

………


「あれ? 死ねない」


「やっぱりですか」


いつの間にか天使的な女性が戻ってきていた。

そして、首をつっていて動けない俺にデコピンをする。


「いってえ」


「いいですか、あなたは目を離すとすぐに自殺をするので、〈天使の加護〉を与えました。これで、あなたは何をしても三年間は死ねません」


「なんて呪いを!」


「加護だって言ってるでしょ!」


そんなもんどうでもいい。

こんな苦痛しかない世界で後三年も生きろとか呪い以外の何物でもない。

それに。


「確かに俺は不幸だった。でも、家族が友達が周辺の人が一人でも手を取ってくれていれば、それだけで幸せだった。でも、誰も助けてくれなかった!」


「それは」


俺の言葉に天使は言葉を失う。

そうだろ?

これは偶然でも何でもない


「人々が俺を不幸にしたんだ。そんな人類を救う義理は無い」


大石おおいし たけるさん。どうか、生まれ変わった気持ちでもう一度人生をやり直して!」


「俺は宣言する! 三年間死ねないなら、三年後に死んでやる! 誰も助けないし、誰とも関わらない! 絶対にだ!」


俺は森の中を走り出していた。











「私ができるのはここまでです。どうか、後はあなた様が」



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