第3話 運命の出会い

俺は駅前で途方に暮れていた。

昨日どうやって帰ってきたかは覚えていない。

もしかしたら夢だったのかもしれない。

いや、夢の方がよかった。


「どうするよこれ?」


俺のポケットの中には十万円があった。

本当だったら豪遊するのに使いたい。

だが、先ほど施設から出てきたばかりである。

そんな俺が出所不明のこんなものを持って遊んでいたら一発で逮捕である。


とりあえずは今日の寝床とかの確認をしに行かないとな。


前々から施設を早く出たいと思っていたので予め、格安アパートとの契約をしていたのだ。

施設を出た時にある程度お金をもらえることは知っていたので、それで契約した。

他にも施設の人にもアパートを借りる保証人になってほしいと言ったら二つ返事で許可してくれた。

向こうも早く出ていった欲しかったのだろう。


確か、アパートは二駅先が最寄りだったよな。


俺はさっそく歩き始めたその時だった。

「びちゃ」という音と俺の背中に小さな衝撃があった。

またいつものか。

上着を脱いで確認するとそこには鳥の糞がついていたのだった。

これはもう洗濯しないと着れない。

俺はビニール袋に上着をを入れてため息をついた。

そして、上が下着一枚になってしまった。


「かなり寒いな」


まだ、三月である。

暦は春であるが寒すぎる。

なにか、他に着るもの……。

は、無かった。

そういえば、昨日もう三月も終わりだし、明日施設を出る前に冬服を洗ってしまおうと洗濯したところ、急に洗濯機が壊れて、洗っていた服が全部ボロボロになってしまったのだ。

なので、今着ている服以外に夏物の服しか残っていなかったのだ。


……嫌だな。

でも、風邪とかになって出費がかさむと困るし、今日これからバイトの面接もある。

でも、今はあれに頼るしかないか。


俺は人気がないところに移動して〈ガチャ〉と唱えるのだった。

カウンターには215pと書かれている。

あれ?

昨日は0pだったのにもう十一連二回分もたまっている。

そんなに不幸があったか?

確かに服は全滅するし、当分の食料としてもらった食べ物は先ほど置き引きにあって無くなった。

他にも小さな不幸はいくつかあったが、そんなに簡単にたまるものなのだろうか?

とりあえずは、上に着れる服が一枚欲しい。

だが、ガチャの内容はランダムで物以外にもスキルとかいうものまで出てくる。

それなら、十一連で一回でも多く引いて少しでも確立を上げた方がいいだろう。

俺は一回十一連の青いボタンを押した。

昨日のように小さな箱が十一個出てくる。

しかも、二つほど虹色に光っているのだ。

俺はさっそく中身を確認しようと触る。

だが、虹色の小箱も含めた十個の箱が消えてしまったのだ。


どういうこと!?


“おめでとうございます!

当たりが出ました!!

〈スキル〉は既に付与されました。

ご確認ください。”


つまりは、十一個中十個全部スキルだったと。

はあ。

とりあえず、最後の一個は?


〈大型バイク〉


はい、ハズレ。

免許もないのにこんな物もらってどうするよ。

もう一度青いボタンを押す。

今度は一つ虹色、金色が三つ他普通の小さな小箱だった。

だが、手元には虹色と普通の小箱の二個だけ残ったのだった。

虹色の小箱を確認する。


〈運命の出会い〉


なにこれ?

そんなものもガチャで手に入るのか。

とりあえずこれは要らないな。

最後の普通の小箱!

無難なの来い!


〈リクルートスーツ〉


「おっしゃああああ!」


求めていた物より少し上の物が来たぞ!

天使的な何か様、ありがとうございます!

早速公衆トイレで着替える。

さて、行くか。

俺は〈運命の出会い〉と〈大型バイク〉の入った小箱を公衆トイレに捨てて出ていこうとした時だった。

また、透明の板が現れる。


“受け取っていないプレゼントが残っています。捨てないでください”


先ほど捨てた二つと他二つの小箱が俺の手元に現れる。

なんで?

捨てたっていいじゃない。

あと、この二つは何?


“昨日の引いたガチャのスキル以外です”


そういえば、森に置いてったのがあったな。

確認してみる。

〈千円 商品券〉、〈電子レンジ〉。

クソ!

どうして絶妙に欲しいものが、入ってるんだ!

捨てられない!


でも、〈運命の出会い〉は要らないな。

必要以上に人とかかわるつもりもない。

こんな物もらってどうするんだ。


“プレゼントを開けた後は捨てれます”


つまり、一度は開けろと。


“はい”


仕方ない。

誰が来ようが突き放せばいいだけだ。

俺は〈運命の出会い〉を開けるのだった。

……

………?


「何も起こらない?」


ガコン


鉄と鉄がぶつかり合う音に上を向く。

すると、上から数本のの鉄筋が落ちてきたのだ。

あ、これは死んだな。

まあ、元々死ぬつもりだったし。

呪いがあるけど、これなら死ねるだろう。

俺は力を抜いて衝撃を待つ。


「キャアア!」


近くで女性の悲鳴が。

見るとすぐそばで尻もちをついた女子高生がいた。

このまま鉄筋が落ちてくれば彼女も無事では済まないだろう。

ふと、その子の顔を見た瞬間、俺は本能的に走り出していた。

彼女を抱えると、力の限り地面を蹴る。


ドゴン!


地面には俺達がいた地面に数本の鉄筋が刺さっていたのだ。

俺は胸の中にいる女性を見る。


「朝倉さん、大丈夫!?」


「え? なんで私の名前を?」


彼女は戸惑っていた。

……よく見ると、俺の知る朝倉さんより少し大人びている。

しかも、目が吊り上がって、気が強そうだ。

俺の初恋の人 朝倉あさくら あかねさんは垂れ目だった。

彼女ではないようだ。


「すみません。人違いでした」


俺は立ち去ろうとする。


「待って、茜を知ってるの?」


その言葉に俺は足を止めたのだった。


「え?」


「私は茜の姉であおいっていうの。あなたはだれ?」


「俺は」


自己紹介しようとするが、なんて言えばいいのか分からず言葉を失う。

彼女とはクラスが一緒だったことは無いのでクラスメイトではない。

しかも、あいさつ程度で話したことは無い。

友達と答えるのもおかしいだろう。

一方的に片思いをしていただけ。


「俺はただの知り合いです」


片思いしていたというのが恥ずかしくて適当に自己紹介する。


「名前は?」


「大石 尊です」


「お願い、妹を探す手掛かりを探しているの! 何か知っていることがあったら教えて!」


本当は誰とも関係を築くつもりはなかった。

でも、もし。

ほんの数パーセントでも。

限りなくゼロに近い確率でも。

彼女が見つかる可能性があるなら。


「分かりました。でも、俺にも探すのを手伝わせてもらってもいいですか?」


「え? むしろいいの?」


「はい、それだけが」








俺の心残りだから。


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