第4話 黄金プリン
その為、俺達は電話番号だけ交換して別れるのだった。
そして、俺は今警察署で話を聞かれているのだが。
「この前ぶりだね」
「どうも、近藤警部」
無駄にイケメンなこの警察官は
俺の不幸には大きいものから小さいものまで様々あるのだが、その中でも警察が間に入らないといけないことがある。
そんな時、この人が必ずと言っていいほど俺の事情聴取をするのだ。
「さて、今回はどうしたのかな?」
「歩いてたら鉄筋が落ちてきただけです」
「それで彼女を助けたと、お手柄だったね。怪我もないようだし。じゃあ、帰っていいよ」
近藤警部はそう言ってあっさり聴取室から出ていこうとする。
彼は最初の頃こそちゃんと俺の話を聞いていたが、今では軽い確認だけしてすぐに帰るように言ってくるのだった。
「毎度思うのですが、いいのですか?」
「なにがだい?」
「これって、事情聴取なんですよね? 事件性とか」
「一様、調べてはいるけど。君が関わった事件は殆どが理由不明。今回も鉄筋は工事資材としてビルの上に置かれていた物だった。もちろん、落ちやすいような場所にはおいていなかった。鉄筋もちゃんとワイヤーで止めてあった。なのに、どういうわけか落ちてきた。誰もいなかったのにだ。もう、お手上げだよ」
「いつもすみません」
「正直呪われてるんじゃないかい? お祓いとか行った方がいいよ」
「はい」
そういえば、俺は死ねない呪いがかかっているんだった。
でも、お祓い程度でこの呪いは解けるのだろうか?
「そうそう、福祉施設から出るんだって?」
「はい、今日」
「なるほど、だから就活の為にリクルートスーツなんだね」
俺の恰好を見て近藤警部が頷く。
先ほど鏡で見たが、子供が背伸びして着ている感が強かった。
「まあ、独り立ちしたってなら、なおのこと気を付けて。次に君と会うのが殺害現場の死体としてとか嫌だよ」
「そうですね」
俺はそうなってほしいのだが。
「後、君の呪いに付き合わされた女の子に謝っておくんだよ」
「はい」
そうですね。
葵さんのような人を増やさないようにするためにも、早く死のう。
そう、思うのだった。
警察署を出る直前、俺は備え付けの時計が目に入る。
もう、十四時半だった。
「バイトの面接!」
バイトの面接は十五時からだ。
残り三十分しかない。
俺は走って面接場所へ向かうのだった。
「すみません」
バイト先までもう少しの所でスーツを着た強面のお兄さんが俺を呼び止めたのだ。
嫌な予感しかしないが、とりあえず振り向いた。
「どう、しました、か?」
「この住所がどこか分かりますか?」
「ああ、ここ」
俺の新しく住むアパートと同じ住所だったので、すぐに教えることができた。
「ありがとう、助かりました。尊さん」
「いえ、困ったときはお互い様なので」
あまり変な人にかかわりたくない俺は逃げるようにその場を後にするのだった。
あれ? 俺、名前教えたっけ?
でももう時間がない。
細かいことを考えるのは後にして走り出すのだった。
バイトをしようと考えている場所は俺がこれから住むことになるアパートから少し離れた少しレトロな雰囲気の喫茶店だ。
前にアパートの見学しに行ったときにバイトの募集のチラシを出していたので、応募したのだ。
そして、俺は面接を受けに来たのだが。
「すみません。もうバイトの子決まっちゃって」
「え?」
「ほんの少し前に飛び入りで募集してきたこがいたのですが、その子に決定してしまいました。また、次にでも応募してください」
俺はバイト面接に落ちたのだった。
面接もする前に。
でも、今ホールで働いている男の子はコミュ力高そうなイケメンである。
俺だってオーナーなら彼を選ぶだろう。
もう少し、早く来ていれば!
強面なお兄さんに呼び止められてなければ!
「それより、来月からの家賃どうしよう」
色々な寒さを感じてふと、ポケットに手を突っ込むと何かが入っているのに気づく。
取り出すとそれは札束。
十万円だった。
「……」
ちょっとくらい。
いいよな。
誘惑に勝てなかった俺はお金を使ってしまったのだった。
新しいアパートに俺は帰ってきた。
まだ、何もない六畳一間の畳の上に今日初めて買ってしまったそれを置き、その目の前で俺は正座した。
今まで施設ではおこづかいなど貰えるわけもなく、必要最低限な物しか与えられなかった。
俺は今まで欲しいものをひたすら我慢し続けてきた。
そんな俺にも欲しいものがあった。
それが。
「黄金のプリン」
小学校の頃から俺は学校の給食で出るプリンが大好きだった。
本来は毎週木曜日に出るのだが、途中で無くなって代わりのゼリーを渡されたり、イジメで取り上げられたりと更にたまにしか食べれなかった。
だが、中学になると給食にプリンが出なくなったのだ。
絶望した。
代わりにヨーグルトが置かれていたが、奴はプリンの足元のも及ばない。
そんな頃クラスメイトが帰りにコンビニでこの黄金のプリンを買っていたのだ。
それを見た俺はずっと気になっていたのだ。
だが、現実は残酷で一個五百円もするのだ。
そんなもの俺が買えるはずない。
俺の人生でこれを食べれることは無いだろう。
そう思っていた。
だが、今目の前に黄金のプリンがあるのだ!
しかも二つ!
「と、とりあえず、開けてみよう」
ゆっくりと俺はプリンのふたを開ける。
その瞬間、カラメルソースの甘いにおいが俺の鼻の奥を刺激する。
「うまそうだ」
だが、俺は不幸だ。
いつどこで何が起こってこれが食べれなくなるか分からない!
早速、プラスチックのスプーンでそれをかき込んだ。
「ああ、おいしい」
濃厚な甘みが口いっぱいに広がり、カラメルソースのビターな甘さがそれを絶妙な塩梅でアクセントを利かす。
これは病みつきになる。
「もう一個、食べよう」
二つ目のプリンに手を伸ばそうとした時だった。
突如、玄関の扉が開かれる。
そして、強面のお兄さんたちに連行される。
その際、お兄さんたちに踏まれる黄金プリンを目にして涙するのっだった。
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