第9話 魔法ガチャ


「分かりました」


結局は俺が折れることになったのだった。

正直な所、金には困っていた。

それを、仕事をこなすことで解決できるなら渡りに船だ。


「そう言ってもらえると信じていたよ。それと仕事に集中できるように、毎月給料を払おう」


そう言ってサラリーマン風のヤクザは指を四本見せる。

なるほど、四万円か。

学校を通うだけだったらそれぐらいもらえれば、後は夜間のバイトでどうにでもなるか。


「金は仕事初日に渡そう。ここの支払いはこの後やっておく。今は当日までにコンディションを整えておきなさい」


「かしこまりました。社長」


「社長?」


「はい、俺の雇い主になりますが、皆さんのようにカシラやオヤジっていうのは少しいい慣れないので」


「なるほど。では、千藤せんどう いただきはこれから君の社長という事だ。よろしく頼むよ、大石くん」


「はい。千藤社長」


本当は近藤警部に関わらないように言われてはいた。

だが、背に腹は代えられない。

それに。


「高校か」


学校は嫌な思い出しかない。

でも、中卒では就職も大変だ。

それに、俺が大好きな本をまた自由に読める時間が与えられる。

特にここ最近は忙しくて本を読める時間もないし、お金もないので買うこともできなかった。

そう思うとかなり嬉しかった。


「体調を整えておいてくれ。それでは、また会おう」


「はい」


千藤社長が病室を出て行った。

さて、コンディションを整えるようにと言われたが、今は手術後すぐなので体を動かすのはいけないだろう。

そうなれば。


「やっぱりこれに頼むしかないんだよな」


先程引いた時に開いたままになっていたガチャ画面を見る。

そこには新たに30p増えていたのだった。

ヤクザに関わり合いになるのは不幸な事らしい。


「これってどんな時にポイントが入るのか分かればいいのに」


“お勧めしませんが、出来ますよ”


透明な板が現れる。

でも、何が不幸なのか俺も確認しておきたい。


“半日分だけとりあえず表示します”


・ストーカーに付きまとわれる 10p

・空き巣に入られる 10p

・食品に異物混入、異物を食べてしまう 50p

・ストーカーに付きまとわれる 10p

・異物が体で化学反応を起こす 15p

・生死の境をさまよう 100p

・ストーカーに付きまとわれる 10p

・手術中の失敗で時間が一時間延長する 50p

・黒服と近藤警部が出会ってしまう 30p

・ストーカーに付きまとわれる 10p

・昼食を出すのを忘れられている 15p

・近藤警部に怒られる 10p

・千藤に目を付けられる 40p

・ストーカーに付きまとわれる 10p



なにこれ?

俺の体調不良の原因って異物混入が理由だったの?

しかも、手術失敗って。

いやそれよりも。


「ストーカーってなに?」


俺が呟いた瞬間、扉の外から誰かが走り去っていく音が聞こえた。

背筋が凍るような感覚に襲われる。

この表示を見るに今日一日ずっとストーカーに付きまとわれてたの?


「ごめん。大きくポイントが入った時だけ表示して欲しい」


“了解しました”


・ストーカーが自分の存在がバレたと勘違いする 30p


さっそくか。

もう、目も当てられないとはこのことをいうのだろう。

未来に不安しか無かった。


「気分を変えよう」


俺はスキル画面を開く。

先程五十五回もガチャを引いた。

もしかしたら、ストーカー撃退や、今後の仕事に役立つスキルが手に入ってるかもしれない。


・未開封スキル箱

虹の箱 15個

金の箱 30個

通常箱 12個


前みたいに勝手に開いておいてはくれないのか。

面倒臭いな。

とりあえず、先に通常箱を開ける。


魔力 Lv3 → Lv7

知力Up Lv1 → Lv4

瞬発力Up Lv11 → Lv16


通常箱はステータスアップ系のスキルのようだ。

だが、また偏りがひどい。

今回のピックアップを考えれば上二つは仕方ないとしても、瞬発力がどのスキルを見比べても高い。

きっとこの後何かの役に立つことを願って、次に俺は金の箱を全て開ける。


火魔法 Lv18

水魔法 Lv1

風魔法 Lv4

土魔法 Lv7


この魔法スキルはそれぞれの操作と耐性スキルらしい。

きっと俺はこんな星のもとに生まれてしまったのだろう。

なに? 火魔法Lv18って。

30回中18回もダブったの?

これは運がいいとみるか、悪いとみるか、今の段階では判断できない。

今度、魔法を使って見よう。

さあ、残り虹箱だ!

これが、普通の箱よりもいいのが出てくるのはこの手のゲーム素人の俺でも分かるぞ!

一個ずつ開ける。


回復魔法 (うん)

光魔法 (ほう)

回復魔法 (あ、ダブった)

闇魔法 (お、うれしい)

回復魔法 (また)

究極魔法 (え? なにこれ物騒)

回復魔法 (あれ? 回復魔法って何回目だっけ?)

回復魔法 (はは)

究極魔法 (いらない)

回復魔法 (……)


「ちょっと待て! 十個開けて6回回復魔法ってなに!? あのクソ天使野郎何考えてる!!」


透明の板が現れる。

申し開きを聞こうじゃないか!!


“今回はSSR(虹箱)はピックアップ対象のみとなっていますが、その確率は全て一定となっています。後はご利用者様の運によるものです。欲しいものが出るまで根気よく回していただけると幸いです”


「そうね。俺、運が悪いんだものね」


思わず泣きそうになってしまった。

残りの八個も開けてしまおう。


回復魔法 (察します)

究極魔法 (ここでお前?)

究極魔法 (もうやだ)

回復魔法 (まだお前の方が)

回復魔法 (はいはい)

重力魔法 (よっしゃああああああ!)

回復魔法 (グスン)

恋愛の天敵 (ん?)


さて、俺の現在のスキル一覧を見て見ましょう。


〈所持スキル 一覧〉


筋力UP  Lv8

体力UP  Lv3

瞬発力Up Lv16

知力Up Lv4

魔力 Lv7

火魔法 Lv18

水魔法 Lv1

風魔法 Lv4

土魔法 Lv7

健康 Lv1

回復魔法 Lv10

究極魔法 Lv4

闇魔法 Lv1

光魔法 Lv1

重力魔法 Lv1

科学の天敵

未来の天敵

恋愛の天敵


確認するか。

光魔法、闇魔法、重力魔法は先の魔法系統と同じで操るのと耐性を上げるスキルだった。

回復魔法は怪我を直す魔法との事だった。


究極魔法:魔法系スキルLv10を使い、その能力の真価を発揮する。


うん、よく分からん。

でも、魔法か。

ちょっと使って見ようかな。

俺は何があっても大丈夫なようにレベルの低い水魔法を発動した時だった。


ピシャン!


突如出てきた水が出ていたのだ。

だが、うまく操作ができずベッドを、しかも下腹部を濡らしてしまう。


「大石さん」


その声に振り向くと女性看護師さんが病室に入ってきたのだ。


「ごめんなさい。ちゅう、しょく、が……」


その視線が俺のベッドに向けられる。

そして、視線が上がると俺と視線が合ってしまう。


「大丈夫ですよ。今交換しますね」


・女性看護師さんにお漏らしと勘違いされる 15p


すぐに勘違いを正そうとも思ったが、魔法をどうやって説明したらいいか分からず、黙っている間にベッドは綺麗に片付けられるのだった。

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