第20話 信頼
「ごめんなさい」
「いや、分かってくれればいいよ」
横山さんは謝ってくれているが、なぜかまだ疑っているような目で俺を見ていた。
もう、今日の予定はすべて終わったので、帰ることにする。
「ねえ」
何か聞こえたかもしれないが、無視だ。
「ちょっと」
何か追いかけてくるが無視。
「待ってよ!!」
靴を履こうとするときもうるさいので無視。
「何組なの!?」
俺は下駄箱の上に指をさす。
横山はその先を見る。
「A組、……。って口で言いなさいよ!!」
「じゃ」
また、どこかであっても困るので足早に校舎をを後にするのだった。
学校を少し離れたところに小さな公園がある。
俺はそこのベンチに座ってスマホを取り出した。
「この番号は本当に近藤さんの番号なのか?」
少し信じられないが、とりあえずかけてみることにした。
Prrrr
『はい、近藤です』
本当に近藤警部が出た。
少しいつもより気怠そうな声だった。
「すみません。やま、じゃなくて。大石です」
『……。ちょうど話がしたいと思ってました』
近藤さんはいつかの病院の頃のように冷たい口調で俺に話しかけてきた。
「こちらもです」
『単刀直入に聞きます。今回の事件どういう風に関わっているのですか?』
俺が事件に関係しているのは分かっているのか。
「その前に、近藤さんは魔法って信じますか?」
質問を質問で返すのはどうかと思った。
しかし、この質問をした上で、信じると答えてくれなければいくら真実を伝えようとも意味がない。
だが、近藤警部は舌打ちをするとさらに低い声で話してきた。
『大人をからかってるなら、切りますよ』
「そうですか。では、俺から話すことはありません」
残念ながら、近藤警部は信じないようだった。
俺はスマホの通話を切ろうとした時だった。
『待って! 分かりました。魔法を信じることを前提に話しましょう』
「……、はい。」
俺は自分の質問、魔法なんて夢物語を急に信じているかと聞いて、信じるという人間のほうが少ないと思いなおす。
その上で、近藤警部が信じることを前提に話を進めてくれたのは、最大の譲歩だったと考えることにした。
「あの日の事を第一発見者の横山さんには聞いたのですか?」
『聞きはしたが、正直要領を得なかった。まるで真実をはぐらかしているような』
社長か親父が俺の魔法を隠す為に色々手を回してくれたようだが、高校生に警察を欺くのは無理があったようだ。
「そうですね。そうなると思います。あの日の本当かことを教えます」
どこまで信じてくれるか、俺はいつの間にか汗ばんだ手を握りしめながら話を進める。
「彼女が発見した被害者の友達は右腕が無かった」
『どういうことですか?』
「俺にも消えた腕の経緯はわかりません。ですが、右肩からバッサリと、切られて、そこから大量の血が流れていた」
『それなら、あの事件現場理由もわかります。ですが、被害者の女の子は怪我一つしてませんでした』
「それは、俺が魔法で直してしまったので」
『は!?』
近藤警部は社長や親父にも負けないくらいどすのきいた低い声で声を上げた。
何か言いたいのか『おま、でも、な。……』と、色々聞きたいことや言いたいことがあるようだが、言葉にできないようだ。
そして、大きくため息をついた。
『信じがたいが、とりあえずは信じましょう。それに、その答えが今回の事件には一番しっくりくる。それぐらい不可解だった』
「すみません」
『いや、現場の血の量は致死量を超えるくらいには出ていた。その状況下で助けたということは、かなり切迫していた、そうでしょ?」
やはり、警察の鑑識能力は高いようだ。
「状態はかなり悪かったです」
『そうか、そうか~。マジか』
近藤警部は目の前にはいないが、頭を抱えているのはなんとなく分かった。
「信じてくれるのですか?」
『……。信じ難いですが、先ほども言った通り、その答えが一番しっくりくる。それに、今まであなたが嘘をついた事はありませんから』
やはり、近藤警部に話して良かった。
たぶん、名倉に言っても信じてはくれなかっだろう。
『その魔法は見ることは出来るのか?』
「はい、切り傷を治す程度なら」
『それなら、今から会って見せて欲しい』
「どこにいけば?」
『警察署に来てください」
「分かりました」
俺は通話を切ると、大きく息を吐き出して胸を下ろした。
凄く緊張していたのか、気づけば手のひらだけでなく、全身で汗をかいていた。
俺は直ぐにでも警察署に行こうとした時だった。
後ろから微かに音がしたような。
「「……」」
振り向くと、尻餅をついた女性がいた。
フードを被っていて顔は分からない。
・ストーカーに話を聞かれる 30p
やはり、ストーカーで間違いないらしい。
こいつが前々から俺のプライバシーを侵害してたと思うと、腹が立った。
何か言ってやらないと、そう思った。
「ひ、久しぶり」
だが、フードを外したそいつの顔を見ておもいだした。
「ずっと、会いたかったの」
体の中から底冷えするような恐怖が体を蹂躙した。
「あの時、君を押してしまった事を謝りたくて」
もう感覚すら無い、右目が痛む。
「ごめんね、たけるくん」
一歩、また一歩と近づいてくる。
「来るな!」
「そ、そんな事言わないで」
そして、彼女は顔を近づける。
少し動けば唇が触れ合う程に。
“使役魔法を使いますか?”
どうにかして、切り抜けないと。
「痛かったよね」
“使役魔法を使いますか?”
彼女が親指で右目を沿うように撫でる。
「た、たすけ」
“使役魔法を使いますか?”
俺は。
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