第6話 提案

俺の父さんが殺される。

そう知った時、俺はなんとも思わなかった。

てっきり、当然の報いだとか、出来れば苦しんで死ねとか、更にひどい最期を迎えるように願うかと思った。

昔の俺だったら、そう考えていたかもしれない。

でも、なぜか思考が追い付かず、理解できない俺がいた。


「父さんを殺すんですね」


「そうだよ。だって、俺達に泥を塗ったんだ。ただじゃ済ませないよ」


「そうですか」


「強引な真似して悪かったね。帰っていいよ」


そう言って、サラリーマン風の男は立ち去ろうとする。

だが、このままこの人と別れたら父さんが死ぬとやっと理解したところで「あの」と声をかけていた。


「どうしたんだい?」


「えっと、その」


なんで、この人を呼び止めたか分からない。

いつの間にか呼び止めていた。

大きく息を吸って吐き出した。

そして、自分の気持ちを確認する。

俺は。


「父さんが俺を今は家族として少しでも愛しているのか知りたい」


「それで何なんだい?」


「ちょっとしたゲームをしませんか?」


俺は無謀にも彼に提案していた。

もし、父さんが生きているのがこれで最後なら確認してみたい。

そう思ってしまったのだ。

しかし、断ってくるだろう。

この提案は彼には何の利益にもならないからだ。

だから、〈科学の敵〉を発動する

お願いだ。

俺の話に乗ってきてくれ。


「ほう、どんなゲームか教えてもらっても?」


やった!

乗ってきた。


「俺の死ぬ寸前であいつが何を言うかを当てるというのはどうですか?」


「もし君が勝ったら?」


「何も求めません。あ、でも、その。今日俺を迎えに来た時につぶされた黄金のプリンを返してもらってもいいですか?」


「ほう」


俺の言葉に彼は後ろにいた俺をここまで連れてきた男たちを睨んだのだった。

そして、ため息をつくと席に座りなおす。


「それで、俺が勝ったら?」


「俺のすべてを好きにしていいです」


「ふむ、よし。いいだろう。それじゃあ、細かいルールを決めよう。ここにいる全員が証人だ」


「はい」


そして、細かいところを決めて俺がヤクザのビルから出てくるころ。

既に外は日が昇ってきていた。

決行は今日の夜だ。

それなら、やらなくてはいけないことがたくさんある。


「まずは、葵さんに会わないと」


俺はきっと負ける。

そうなると、彼女と話をする機会を失う。

せめて、俺の情報が茜さんを見つける手掛かりになれば。

そう思い、俺は葵さんを電話で呼び出すのだった。




「昨日はありがとうございました」


「いえ、こちらこそ、急いで来ていただきありがとうございます」


今日が日曜日だったこともあり、呼び出すとすぐに来てくれたのだ。

駅近くのダトールコーヒーで話をすることになった。

中は朝早いこともあってか人がほとんどいなく、話をするにはちょうどいい環境だった。


「早速で悪いけど、茜、妹が失踪した日、あなたは最後にいつ妹を見ましたか?」


その日は今でも忘れない。


「その日、最後に見たのは彼女がいつもの様に幼馴染の彼を待って図書館にいるところでした」


放課後になると彼女はいつもサッカー部の幼馴染の彼を待っていた。

そして、最終下校時刻少し前に彼が迎えに来て、一緒に帰るのだった。


「でも、その日は迎えに来なかったんだ」


「え? そう、なのですか?」


「はい」


いつも俺が最後なので図書室の施錠を先生に任されていた。

その為、俺が最終時刻に図書室の最終確認をして出ていくのだが、その日はまだ茜さんは図書室にいたのだった。

俺が「もう鍵を閉めるので」というと「ごめんなさい」と言って図書室を出て行ったのだ。


「そういえば、彼女は出ていくとき左を曲がった」


「それにどういう意味が?」


「下駄箱は右に行った方が近かったんだ。左はむしろ遠回り。そういえば、左は部室等に続いてた」


「じゃあ、智也ともやくんに会いに行ったの?」


「トモヤ?」


「ああ、茜の幼馴染の名前」


そうか、そんな名前だったのか。

茜さん以外に興味がなかったから、知らなかった。


「その、トモヤ? くんに会いにいったかまでは分かりませんが、まっすぐ下校したわけではないと思います」


「最後に茜は何を読んでたか分かる?」


「それは、何だったか。でも、そう。最後に声をかけた時、図鑑コーナーにいたはず。表紙が赤かったような気がするけど、何の本だったかまではすまない」


「そうですか」


「すみません。あまり役に立てず」


「いえ、ありがとうございます」


では、今度はこちらからだ。


「最後に茜さんが目撃された場所はとこですか?」


本当は一緒に探してあげれるか、分からなかったが知りたかった。


「え? あ、そうよね。一緒に探してくれるんだもんね。えっと」


そう言って、一枚の地図を取り出したのだ。

どうやら、この町の地図のようだ。

そこには学校からある家までの間に赤い線や文字が書かれていた。


「最後に茜が確認されたのはどういうわけか、家とは真逆の方だったの」


そう言って赤い線とは逆の方に伸びる青い線と最後の点を指さした。


「ここは?」


「本屋さん、です。その日、本屋さんで推理小説を買ったのを本屋の店員さんが確認してる。でも、そこからの目撃証言が無くて」


「時間は?」


「本屋に入ったのが十九時四十二分。出てきたのはその十二分後、警察が本屋の防犯ビデオで確認済みだって」


「俺が図書室の鍵を返したのがちょうど十八時でした。学校から駅まで徒歩でも十五分かからない」


「一時間近く何をしてたんだろう?」


葵さんは考え込んでしまう。

俺も何か手がかりはないかと地図を見る。

よく見ると、彼女が失踪する三日前からの情報が所狭しと書かれていたのだった。


「見つけてあげなきゃな」


「うん」

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