第24話 不幸と感情


俺はシャワーを浴びた後出てくると、古びているが学校の制服が置かれてあった。

誰かの古着なのだろうか?

制服にそでを通して脱衣所から出る。

そして、お店のフロアに出ると葵さんがコーヒーを飲んでいた。


「さっぱりしたでしょ? あんな格好では学校にいけないだろうからね」


「制服とか、色々ありがとうございます」


「その制服、ここの店主が学生だった頃に着ていたものなの。もう着ないらしいからもらっちゃって」


そうなのか。

でも、この制服は古そうではあるが、デザインは数年前に変わった後のものだ。

若い男性が店主をしているのだろうか?

だが、その割には店の内装がかなり独特というか、ファンシーというか。

ピンクと白がベースの随分とかわいらしい仕様になっている。


「後でここの店主にお礼言って。今日は定休日でいないけど、明日のお昼ごろからやってるはずだから。学校の帰りにでも寄ってあげれば喜ぶわ」


「分かりました」


ここの店主に若干不安を感じながらも、葵さんが言うのであれば変な人ではないだろう。


「それで、君が何であんなところで放置されてたのか聞いてもいいかな?」


「それは」


なんといえばいいのだろうか?

不幸ポイントを貯めるために自らトラブルが多そうなところに来たなんて言って信じてもらえるはずがない。

俺は言葉を見つけられず、申し訳なく葵さんを見るとは静かに笑っていた。


「いや、話しにくいことなら話さなくていい。ただ、昨日あんなことがあったばかりだから、心配になってね」


葵さんがただの親切心からの言葉に、真実を話すことを念頭にすら置いていなかったことに申し訳なく思った。


「すみません」


「謝る必要はないよ。それに、私は君に助けられたんだ」


「鉄筋が落ちたことなら」


「それもあるがそれじゃないんだ」


少しの沈黙の後、葵さんは胸元から取り出したペンダントを見ながら口を開く。


「茜がいなくなってから一年間。事件の進捗が何もなくて、君と会う少し前に警察の捜査網が縮小されることになったんだ」


ペンダントを握る力が強くなる。

そして、下唇を噛む。


「私は何の成果も得られなかったくせに、勝手に捜査を縮小した警察に腹が立って、一人でも私は探してやろうって」


そうだったのか。

でも、一人で探すとはどういうことだろうか?

茜さんの事はよくわからないが、彼女には友達だっていただろうし、幼馴染の男の子だって。

それに。


「親御さんは?」


「三年前に前に交通事故で亡くなってね。実はここのオーナーが伯父さんで、その人に身元保証人になってもらってるんだ」


ここのオーナーとはそういう繋がりだったのか。

だから、合いかぎも持っていたし、シャワーも簡単に貸してくれたのか。


「そう、だったのですね」


俺は彼女に何か言葉をかけなくては。

でも、後ろめたい気持ちが後ろ髪を引いたのだ。


「すまない。なんでこんな話をしてしまったのだろうか」


「いえ、そんなことは」


笑って見せたその表情に一筋の涙が通る。


「……。それじゃあ、学校に行こうか」


なんて不器用なのだろうか。

なのに、なんて強いのだろうか。


「あの!」


俺のこの口は感情のまま声を出していた。


「なんだい?」


でも、その後に発する言葉を今の俺の頭の中には持ち合わせてなかった。

本当に俺は愚かだな。


「あ、その。ありがとうございます」


何時間にも感じる数秒の中、引きだした言葉は逃げの言葉だった。


「なに、嘘でも一緒に探してくれると。妹の話を聞いてくれる人がいてくれてうれしかったよ」


葵さんにとってきっとなんて事のない言葉だったのだろう。

もしくは、警察のようにどこか納得できていない現状への言葉だったのかもしれない。


「そんな嘘なんかじゃ、嘘なんかじゃない!!」


でも、俺はその言葉を茜さんへの気持ちも嘘だと言われえているように言われた気がして。

感情のまま言葉を吐き出した。


「大石くん?」


急に大声を出したせいで葵さんも困惑している。


「俺は、彼女を」


だが、もう一度流れ出した感情は止めることができなく。

泣いていたのは葵さんだったのに。


「好きだった」


涙と感情を零してしまっていた。


「でも、俺は人を不幸にする。俺といるだけで。だから、見ているだけでよかった。俺が好きな本を読んで同じように笑ってくれる。そんな彼女を図書室にいるあの時間だけが幸福だった。そんな、彼女が幸せになるなら、幼馴染の彼と幸せになるのも……」


ずっと辛くて。

そうだ。

俺は誰とも関係を気づきたくなかったんじゃない。

好きな人が、俺のせいで傷つくのが怖くて。

だから、見ているだけで。


「何を言って」


もう、周りの声が音としか認識できない。

それほどに、俺の脳内は感情に塗りつぶされていく。


「なんで、消えてしまったんだ!」


「落ち着きなさい」


俺の芯まで冷えてく体を暖かい温もりが支えてくれる。

だが、一度冷え始めた心はどこまでも深みに飲まれて行って。


「俺は。この不幸のせいで彼女も、近藤警部も」


やっぱり俺は死んだほうがいいんだ。

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