第4回 本に困った人たち

第1話

 GWゴールデンウィークが明け、どの教師からも「今月下旬から中間テスト」との言葉が聞こえ、生徒がお決まりの反応をする。


 いつもは適当に授業を受けるだけの俺も流石に高校最初のテストは漠然と不安を感じていた。

 勉強は苦手ではない。この萬高校には余裕で入ったし、何ならもう1ランク上の高校を目指せると当時の担任に何度も言われた。

 勉強は苦手ではないが努力はあまり好きではない。

 だが、漠然とした不安を拭うために気休め程度にでも何かしようと昼休みに図書室へと向かう。


 図書室に行くのは二度目だ。

 以前はラノベや漫画の蔵書がどれほどかと見にいったが漫画の古い名作しか置いておらずちょっとがっかりした。

 ただ今回は奥の自習スペースに用がある。


 ガラっと図書室の扉を開けるといかにも『図書』の2文字が似合いそうな美少女がいた。

 もはや何度もその顔を見ている。神下ゆきなである。

 向こうはこちらに気付いていないようなので、特に挨拶することも無いだろうと通り過ぎようとすると突然、声を掛けられた。

「古木くん、いつも部室で何読んでるの?」


 いきなり声を掛けられて、ドキっとして変な声が出てしまう。俺は頭をボリボリ掻いてはぐらかす。

「ごめんなさい。驚かせてしまって」

「あー、俺? 俺はいつもライトノベル読んでる」

「ああ、あの表紙がアニメみたいな」

「だいたい合ってる……」

 合ってるのか? と思わないでも無かったがラノベに興味を示したくれたのならありがたい。


「そう。他は読まないの?」

「いや……、それだけだ」

 すると神下は「そう」と短く返事をしてまた本棚の方に向き直ってしまった。

 どうやらラノベに興味を示したわけでは無かったらしく、残念だ。その本棚には何となく名前は聞いたことある本が散見される。あいにくその手の本は滅多に読まない。


「じゃあ、俺自習スペースの方に用があるから」

「勉強? がんばって」

 どうも神下は趣味の合う読書仲間が出来るかもと思ったらしいが、それは検討違いだ。

 そういえば部活関係以外で初めてこいつと会ったなと思いながら歩いていくと、後方で話し声がした。


 話し声に『図書館ではお静かにお願いします』とさっきの自分たちのことを棚に上げて心の中で呟きながら振り返ると神下が何か女子生徒と話していた。

 ああ、カウンターにいた図書委員か。何か本のことだろうか、と思いながら図書室の奥へとさらに歩いていった。



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