第3話

 部室のホワイトボードに浜辺の字が躍っていた。議題は当然、昨日出会ったサクラとやらについて。多分、佐倉って書くのかな?

「はい、それではクラちゃんを助けようの会! 定例会議第1回!」

『てーれーかいぎ』みたいな発音に対して神下が控えめにパチパチする。


「はい、まずウチから! もっと給料のいいバイトを探す!」

「あっ!」

 どうやら、浜辺と同じことを考えていたらしい。意見被りについ驚きの声が出る。

 今回の依頼。いや、依頼されてはいないがを解決する運びになった昨日からお金問題を解決する方法を家で色々と調べたググったが出て来るのは副業をするとか、借りるとか、不用品を売るとかだ。

 あとは怪しいサイトがひっかかりにひっかかった。

 結局は今より良い給料のバイトを探してやるくらいしか思いつかなかった。

「すまん、俺も同じこと考えてた」


「では、私から。資格を取る」

 それは逆に金がかからないか。と思ったが神下が説明を付け足す。

「将来を見越せば、こうしておいた方がいいわ。こうすれば給料の良い職業に就きやすくなるはずよ」

 なるほど、長期的な視点で見れば問題の解決には繋がるのだろうか。

「あなたたちと同じように別のアルバイトを探すというのも当然思いついたのだけれど、高校生ができるアルバイトの範囲や貰える給料なんて限度があるから。根本的な解決には繋がらないんじゃないかしら」

 なるほど、確かに神下の言うことも分かる。高校生のバイトなぞ低賃金もいいとこだ。それよりは将来の仕事のための下準備をしようというわけか。


「うーん、他には宝くじ買うとか。資格取るのってお金かかるんじゃ?」

 なるほど、運任せ過ぎる案だ。しかも宝くじは年齢制限あるから高校生買えないしな。浜辺の第2案を心の中で一蹴したはいいが、俺もそれ以上に案が無かった。

「方法を選択すれば費用は抑えられるけど、少なからずかかるのは確かね」

「宝くじは年齢制限あるしな、ひとまずは給料の良いバイトを探すということでいいか?」

「ええ、そうね」

 そう返事すると神下はカバンから何か取り出す。

 バイトの求人サイトをそのままコピーしたものだった。こいつ本当にいつも用意いいな。


 とはいえ、俺も昨日同じようなものを見ていた。どこも似たり寄ったりである。

 夜勤もあるが高校に通いながらでは流石に辛いだろ。

「うーん、給料良いのはこのあたりかな」

 浜辺がいくつかをピックアップするがいずれも肉体労働の類。

「でも、クラちゃんは接客の方が好きそう」

 ぶつぶつと独り言で俺の知らない情報を基に分析し出す。

「……まだ少し早いけど今日は終わりにしましょう。ちょっと私、用事があるから先に帰らせてもらうわ」

 結論が出ないまま逡巡しゅんじゅんしていると神下が解散を命じる。

「わかった~、バイバイ! フルっち帰ろー」

「そうだな、お疲れさん」

 

 いつもは神下と浜辺が一緒に返っている。女性2人を邪魔せぬようにと俺は1人で足早に帰っていることが多い。

 浜辺と一緒に2人だけで帰るのは確か2度目だ。以前と同じように駅前で別れ、俺は1人で自宅の方へと向かった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る