第4話

 家に着いた俺は、今日も両親がいないので1人で晩飯の用意にかかる。残っている食材を確認するがこれというものがなく、また買い物に行かなければと思いながら生袋麺のラーメンにすることにした。

 モヤシと刻みネギをぶち込み、余っていた豚バラをチャーシューの代わりに。

 うん、いい出来だ。最近の袋麺は。


 ズズーとすすりながら動画サイトを漁っているとスマホが鳴る。

 神下から電話だった。

「もしもし」

「もしもし、神下です。夜分遅くにすいません」

「古木だ、なんの用?」

 時計を見ると7時前。別に夜分遅くというほどでもない。

「今日このあと、9時半から時間あるかしら?」

「あるけど……。今日の9時半、21時30分ってことだよな」

「ええ、その時間に駅前に来てくれるかしら。出来るだけ大人に見えるファッションでお願い」

 え、なんで? 妙なお誘いに膨大な考えが頭を巡った。俺は頭を抱えるようにく。

「じゃあ、お願いね」

 ツーツー

 沈黙を承諾ととらえたか。考えの整理がつかず理由を聞く前に向こうが電話を切ってしまった。


 まだ21時半まで時間はあるというのに俺は残っていたラーメンを飲むように食べ、ご指定の大人に見えるファッションを模索もさくするため、クローゼットを開き、乱れた髪を整える。

 うん、今度服も買った方がいいな。




 5月28日午後21時24分。

 俺は神下に言われた駅前へ行く。このあたりで単に駅前と言えば萬駅前のことであり、それは確認するまでもない。確認すべきはなぜこの時間にここに来る必要があるのかである。

 あの後俺はその理由を確認するための電話なりメッセージなりするか悩んだ末に結局しないままここまで来てしまった。


 駅前には若く美しい女性がいた。駅の白い壁と対象的な美しい黒髪。


 淡い青のブラウスと白の、フレアスカートというのだろうか。

 極めて大人っぽく楚々とした恰好であった。そこにワンポイントとしてのネックレス。

 夜の灯りという灯りが静かに彼女を照らすために点いている。そう感じた。


 ゴクっと唾を呑む。

 悲しいかな。それ以上は俺の語彙力ごいりょくとファッション知識では彼女を言い表すことはできなかった。

「すまん、遅れたか?」

 そう言いながら俺は自分の手元を見る。

 悲しいかな。俺は彼女とは全く釣り合わない地味なだけの格好だった。


「いえ、充分早いわ。私が早く来過ぎただけよ」

 そう言った彼女は俺をまじまじと見る。これでも出来るだけ大人っぽいものを選んだはずだ。

「うん。まあいいでしょ」

 俺は気恥ずかしくて目を逸らす。よく分からないが合格らしい。

「それじゃあ、行きましょう」

「お、おい。こんな時間にどこへ」

 どこへ行くのか。結局は聞きそびれていた。下らない妄想幻想の類も頭をよぎったが極めて現実的な方向へと頭を回していた。それでも結論はでなかった。

「サイズの向かいにあるラーメン来翔らいしょうよ」


 なんでラーメン屋? こいつそういえば前もパスタ食ってたし、もしかして無類の麺好きとかなの?





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