第4話
ホワイトボードには「ポスターのデザインを考え直す」「お昼の放送を勧誘に使わせてもらう」「誰かに兼部してもらう」というマトモな案から。
「諦める」「他の部活として活動する」など明らかにふざけたアイデアの文字が躍っていた。ちなみに両方とも俺だ。
単に意見を安易に否定しないブレインストーミング形式にいつの間にかなっていたのか。それともふざけたようなアイデアでもまともに取り合わなければならないほど切羽詰まっていたかだ。
実際、時間の面では切羽詰まっている。今日の下校時刻は迫っており、明日の下校時刻前には職員室へ入部届を提出しなければならない。よってこの依頼のタイムリミットも明日までとなる。
ちなみに明日になっても入部届を出さなかった生徒はもっとも練習のハードな部活に強制入部されるだの、大きく内申点を下げられるとの噂だ。だがあくまで特に事情がない限りであり、ここでいう事情とは例えば家庭の経済事情からバイトしなければならないとか、もっと強いチームの元で練習したいから県のクラブチームに入るとか、そういう理由から高校側からのOKがでればいい。
今日に至ってなお、部活を決めることをサボり続けていた生徒たちは今ごろ焦っているだろう。
俺も部活を決めることをサボっていた結果、現在進行形でよく分からないことに巻き込まれている。アイデアの質はともかく、量で言えば一番俺が出したんじゃないかな。
この学校も正にこのホワイトボードのように部活の数はあるが(ただしアニメ研究部は無い)残念ながら県大会出場だとか、甲子園だのインターハイに進んだという話を聞いたことがない。
質はない癖に量だけはある。
そして、この中から選ばざるを得ない。
「うーん、どれも今からだと難しいね」
「ポスターは今からデザインしていたら貼れるのは明日の午後になっちゃうかな」
浜辺と北浦が話ながら考え込む。
そうなのだ。何をするにも時間が無い。
「兼部は校則上出来ない。諦めるは論外。他の部活動として活動するは意味不明……」
神下はテキパキとホワイトボードに横線を引いていく。主に俺の案に。
「なあ北浦さん、バトミントンはある程度メジャーなスポーツだよな。なのにここまで部員が集まらないものなのか」
俺に突然声を掛けられ北浦は黙ってしまった。少ししてあーとかうーんと小さな音を出す。
「そうだな。一度とりあえず実際の部活の様子を見てみよう。何か思いつくかもしれん」
本当に何か思いつくと思ったわけではない。ふとこの気まずくなってしまった状態に耐えかねて思いつきで言っただけだ。しかしこのままでは埒が明かない。そういう意味ではずっとこの狭い部室で考え込んでいるよりは新しい刺激を得た方が幾分か可能性がありそうな気はした。
バトミントン部が使っていたのは第3体育館の半分だった。部員は依頼者である部長を合わせ全員が一年生の女子4人。隣は卓球部であり3学年で合わせて30人は超えているだろう。比較すれば何とも贅沢な空間の使いかたである。
それで彼女たちの練習風景はと言うと――
いや、練習と呼ぶべきなのだろうか。普通、運動系の部活は大会や本番がある。だから普段の部活動は練習やトレーニングと呼ばれるわけだが彼女たちのそれは練習やトレーニングとは呼べなかった。
まるでラウンドワンに遊びに来たのか? というようなレベルでサーブミスは当たり前、空振りも当たり前。
別に俺も運動を頑張る方では無い。体育の授業では最低限のことしかしない。部活だって運動部は全力で避けてきた。
人が集まらない理由はこれだろう。
本気でバトミントンをやりたい人はまず合わず、楽しくバトミントンをやりたい人にとってもおそらく求めている以上にバトミントンとして成立していない。
ここの部長は「みんなで楽しく」と言っていたがこの部の現状は「みんなで楽しくバトミントンを出来れば」よりも「みんなで楽しくワイワイ出来れば」と言った方が正確で、別にバトミントンである必要性を感じない。ただ言い訳かまたはワイワイするための道具としてしか機能していないように思えた。
辛辣な言い方をしたがあえて彼女らをよく言うなら「みんなで楽しく青春している」であり、他人がどう部活をやろうがあまりとやかく言うべきでは無い。
ただ、この部活に入りたい人がいるだろうか。
いるであろう。しかし、運動部というだけでまずキツいというイメージは付きまとう。「別にキツくないよー」と喧伝するのは常套手段。
まあ、彼女らの部活は本当にキツくはないのだが、それを知ってもらうためにはやはり何度も言うが時間が足りない。時刻は完全下校時刻10分前だった。
しかも、この女子4人のグループの輪は既に完成形であり、ここに1人を加えることはなおさら困難に感じた。
同じことをコート脇で見ていた2人も感じたらしく、何とも言えない顔をしていた。
「みんな楽しそうにやってるねー」と浜辺がフォローじみた一言を呟く。
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