第5話

 俺の推理を基に俺と浜辺はもう1度、職員室と他の部活が活動する場に向かったがそれらしい人物の情報は得られなかった。

 結局そのまま帰路に着き、いよいよ八方塞がりで万策尽きた。


 次の日、昨日の神下の様子からどうにかなるのだろうと考えて特に何も考えるもせずに放課後まで過ごし、部室へと向かう。


 音楽系の部活を除く文化部の部室が集まる東棟3階はいつも通り、静かすぎることは無く穏やかという表現が合っていた。


 ただ1点だけいつもと違い、もう通いなれてしまった部室前に人影が見えた。


 近づいていき、その人影が神下ゆきなだと確信する。

「おう、どうした入らないのか?」

 そう問いかけるが彼女は俯いたまま扉の前を動こうとしない。


「なあ……」

「あ、その……」


「昨日はごめんなさい」

 彼女は直角近く頭を下げてそう口にした。

「その、私たまに変に集中しちゃうと昨日みたいに素っ気ない態度を取っちゃうことがあって……。自分でも分かってるから気を付けるようにはしてるんだけど……。本当にごめんなさい」

 そう言って再度頭を下げる。長い髪はだらんと前に垂れ、顔を覆い尽くす。


「別にそんなに気にしてねーよ。それより、依頼のことで何か気づいたんじゃねぇのか? こっちは結局見つけられずだ」

 深々と謝られて、なんだか気恥ずかしくなり話題を逸らしてしまう。


「ありがとう。確証は無い推論なのだけれど聞いてもらえるかしら」

「ああ」

 彼女は顔を上げて目をこする。クスっと笑ったように見えた。




 依頼者は流石に3日連続で部活を抜けれなかったため部室には俺たち3人だけだった。

 既に浜辺がお茶を入れており、俺は紙コップを手に取る。

 もうぬるくなったお茶で各々が喉を潤すと神下が「推論なのだけれど」と再度前置きし、話始める。


「2人は依頼者の野村さんが例の男子生徒といつ会ったか覚えてる?」

「入学式の日だろ……? それは何度も確認しただろ」


「ええ、それは間違いないのだけれど、大事なのはその日のいつか」

「それで?」と俺が促す。

「でもその前に昨日の古木くんの説を精査してみましょう」

 言葉少なく話し、更には一度自分の説を棚に上げて妙に勿体ぶってくる。

 昨日の浜辺の言葉を借りればライバルである俺を打ち負かして嬉しいのだろうか。

 変なところで子供っぽいやつだ。


「古木くんの説はどちらもなぜわざわざ制服を着てきたのかという点に疑問が残るわ」

 言われるとなるほどだ。

 制服ならば入学式に参加していない1年生か勝手に登校してきた上級生かとまず思われるだろう。どちらも教師に見つかれば多少なりともお咎めを受ける。ここの制服に愛着が合って――という人もいるかもしれないが私服で来る親族も多い中で入学式の日にわざわざそんな目立つことをするのは説得力に欠ける。


「だから探している男子生徒は正真正銘の1年生よ」

「野村さんの言葉覚えてる? 入学式のに廊下で会ったって」


「朝? そこが大事なの?」

 浜辺が神下に尋ねる。ああ、そういえばそんなこと言っていたかと俺は自分の記憶を辿る。

「ええ、朝と言っても比較的早い時間だったんだわ。生徒がほとんどいないほどにね」

「彼は高校デビュー、というのかしら? 浮ついた気持ちで派手に髪を染めてしまった。それを目撃者の少ない朝の早い段階で教師が発見。もちろん校則違反なのだけれど今回だけは見逃すからとどこかで黒染めで教師に直された。だからそれ以降は誰も茶髪の生徒を見ることは無かった。これが真相! ……の可能性が高いわ」

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