第7話
俺はいつもは遅刻ギリギリに登校している。
しかし、昨日のこともあり今日は早い時間に目が覚めてしまった。
例のアカウントを見てみると特段の反応はない。
朝一にビラ配りをするとの昨日の神下の言葉を思い出し、俺は念のため開門時間の少し後くらいに間に合うよう家を出る。
4月も中頃で校門の近くには散った桜が何度も踏まれた光景があるというのにこの時間はまだ少し肌寒い。
校門に着くと早速、神下と浜辺、それからバトミントン部の4人がビラ配りをしていた。
まだ登校してくる生徒はまばらだが彼女たちは積極的に動く。
露骨に避けて通る生徒も入れば、成り行きでビラを受け取る生徒もいる。
向こうにはテニスラケットが入ったバッグを抱えている者もおり、ここにいる生徒はやはり部活が既に決まっている。
この早い時間の投稿は朝練のためだろう。
だから、このビラ配りでの勧誘にあまり意味は無いと思っている。
これが上手くいけば俺の昨日の苦労が無駄になるのでもうここまで来たらこちらが無駄になって欲しいとふと思った。
「バトミントン部! 入りませんかー!」
それでも彼女ら、特に神下は本当によく働いている。その姿を見ると無駄になって欲しいなどと口が裂けても言えなかった。そのスラっとした体からとは思えないほどよく通る声だ。彼女の端正な顔も手伝ったのかそうでないのか、他より人目を引いてはいる。
浜辺は声もだが文字通り、動くことで生徒たちの前に立ちふさがるようにする。
結果的に生徒たちはビラを受け取ってくれてはいるが彼らが入部するかは別問題だ。
「古木くん、遅かったじゃない。もう始めてるわよ」
「あっー、フルっちごめん! 連絡しようとしたんだけど、そういえばLINE聞いてなかった。」
「おう?」
はいと神山からビラを手渡される。どうやらやはり俺もビラ配りすることになっていたらしい。早起きしてよかったー。もし遅れてたら一方的にどやされていたかもしれん。
朝からそんな威勢のいい声は出せないので神山の威を借りて道行く人たちにビラを配るだけの機械に成り下がることにする。
しばらくして神山は一度手を止め俺に話しかけられる。
「それで古木くん、あなたが昨日言っていた案はどうなったの? 上手くいった?」
「放課後まで待ってくれるか。放課後は部室じゃなくて昨日行った体育館に来てくれ。それからバトミントン部の連中には普段通りに部活をするように言っといてくれ」
「入ってくれそうな人を見つけたってこと? じゃあ成功したのね」
「いや、成功かは分からん。だが最善は尽くしたぞ」
「放課後ね。期待してる」
「ちょっと、2人とも手止まってるよー」
浜辺に言われて俺たちは改めて手を動かす。
気付けば校門は登校ラッシュで人のなだれ込むような時間に差し掛かっていた。俺たちがその流れをせき止めるように声をかける。誰彼構わず渡されていったビラはすぐに無くなった。
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