第4話

 試合はダブルス、1ゲームのみ。


 序盤こそ浜辺が怒涛の攻めを見せていた。

 しかし相手の女子ペアは神下が下手なことに早々に気付いてしまい、現在神下が集中的に狙われそれを浜辺がカバーする防戦一方といった試合展開だ。

 もちろん卑怯ではない、立派な戦術である。


 しかし相手の激しい攻撃に翻弄された神下は息が上がりっぱなしで手を膝に着いている。流石にちょっとまずいんじゃないかと思い、声を掛ける。

「おい神下、降参もありだぞ。無理に勝つことはないだろ」

 負けてもジュース奢らされるだけだ、と言いかけたところでか細い声の反論とも言えない反論が飛んでくる。

「大丈夫だから……。うん、大丈夫だから」


 まるで自分に言い聞かせているようだった。一体何が彼女をここまで突き動かしているんだろうか。

「大丈夫だよ、フルっち。ウチが2人分動けば。ゆきなちゃんはコートの端にいていいから」

 そう言われた神下は浜辺と見つめ合うような間を置いて、流石に引き際と感じたのかコート端へとゆっくり歩いた。

 ただならぬ様子に先輩方からも「だいじょーぶ?」と心配されたが浜辺が「いけます!」と答えると「じゃあ遠慮なしに」とゲームが再開される。


 実質的に2対1の試合は流石の浜辺にもキツかったようでゲームはデュースへともつれ込む。


 あと1点とればこちらの勝ちでゲームセット。

 その大一番でサーブ権は神下。


 多少なりとも体力の回復していた神下。

 その細い腕からスッっとボールが浮き上がる。

 スパンと軽い打球音がし、ボールは相手コート端を攻める。

 会心の一打!!


 下手と決めつけていた神下からの意外な一撃に相手は反応が遅れる。

 返された球は大きく空中に跳ね上がり弾道を描いて神下の方に近づいて来る。


 浜辺はポニーテールを大きく揺らし、向かおうとするが立ち止まる。

 この一発は神下に託される。

 神下はボールを目で追ってゆく。

 スパンと2度目の軽い打球音がし、ボールは相手コート端に向かう――――




 痛恨の一打!

 ボールはコートの外にバウンドした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る