第3話
ポン、ポンと一定間隔でリズムが刻まれる。
校舎の脇でラケットがボールを打つ軽快な音が鳴り響いていた。
なぜか俺も着いてこさせられたが特に何もすることが無かったので地面を眺めて暇をつぶす。
こっ、これは! 地球上に0.1gしかないと言われる伝説の宝石!
などと、砂の中のキラキラしたものを見ながら下らないことを考えているとラリーが終わりフォーム指導に入っていた。
浜辺が依頼者の西島と体を密着させるような構図になる。
なっ、なんと! これはかつてムー大陸を支えた最強の鉱物の残骸では!?
などと、再び心から下らないことを考え出す。
さて、次は神下の番みたいだな。
……。
はっきり言おう。
神下は運動オンチだった。超が付くほどに。
前回の件では絵が上手いという特技を発揮していた彼女だが運動は見るからにダメらしい。ギャグ漫画みたいな下手さでは無いにしても数回のラリーもまともに続いていなかった。
ああ、これが神下には内緒にした理由なのか?
結局、浜辺は神下に素振り練習という名目の元で実質放置宣言し、西島の指導に専念していた。
次の日の昼、俺はいつも通り事前に買ったパンを校舎裏で食べようと向かっていると電話が鳴る。
久しぶりに誰かから電話もらったなと画面を見ると浜辺だった。
「もしもし」
「あっ、フルっち? 昼休みはテニスコートに集合ね!」
ツーツー
返事をする前に切られてしまった。
テニスコートに向かうと昨日と同じ顔がすでに揃っていた。
浜辺がきわどいコースに送球し、依頼者の西島がそれを返す。
「こーすけくん!ペース上げてくよー!」
「分かりました、
いつの間にか名前で呼び合う仲になっていた。
神下はなぜかテニスコート脇で座り込んで何かを見入るように読んでいた。
俺は隣に座り、パンを口に運ぶ。
「お前もするんじゃなかったの?」
「ちょっと疲れてしまってね……」
そんなので体育の授業やれているのだろうかと疑問に思ったが読んでいるものがテニスの指南書であることが分かるとその疑問を飲み込んだ。
「私、また浜辺さんに迷惑かけちゃったかしら……」
独り言のように呟く。
「アレ? 浜辺繋希じゃん?」
そう聞こえた方を振り返ると3年生の女子生徒が2人、コートの外に立っていた。
「先輩! お疲れさまっす」
「お~、西島おつかれー」
どうやらテニス部の3年生らしい。
「ねぇ、あなたって前も来てたけど浜辺繋希でしょ? 前の
「はい、そうですけど……」
「じゃあさー、アタシらと勝負してよ。負けた方がジュースおごりで」
何だか突然、妙な展開になってきた。
一昨日の試合で浜辺が強いことは知っていたが、中学生のときはテニスのトッププレイヤーだったらしい。どおりでやたらに強いわけだ。
上級生相手とはいえ、こいつと依頼者ならいい試合になるんじゃないか。
「あ~、でも男子いると不公平じゃない? ほらそっちに座ってる可愛い子いるじゃん。あの子とダブルスってことで」
何だかさらに、妙な展開になってきた。
昨日の件で神下がテニス、おそらくはスポーツ全般が苦手なことは知っている。確かにテニスに限らずスポーツで男女を分けるのは常識だが、こと神下をということならよくない流れだと思い、異議申し立てしにかかる。
「あの――」
「大丈夫よ。古木くん」
神下はラケットを片手に立ち上がる。表情は件の依頼解決モードだ。
「あんた名前は?」
「神下ゆきなと申します。先輩方、どうぞよろしくお願いいたします」
神下はガチガチの敬語とお辞儀で挨拶していく。
斯くして、本当に妙な展開になった。
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