第2話
「待って~、フルっち~!」
振り返る体操着のままの左肩に鞄とラケットケースを構えてバタバタと走る浜辺がいた。
「傘もってないから入れて~」
「構わんが折り畳みだぞ。」
「いいからいいからー」
小さな折り畳み傘に2人。流石に狭い。
「ごめんね、急に呼び出して」
「別に構わん。実際ちょうど暇だったしな」
校門を出たあたりで俺が「テニス上手いんだな」と褒めると「中学のとき部活でね」と返事が返ってくる。
お互いに傘が覆いきれない部分が濡れだす。彼女が着ている半袖も派手に濡れてゆく。
見てはいけない気がして俺は目を逸らしてしまう。
「うわっ、さっむ!」
ごそごそとカバンを漁って長袖のジャージを取り出すとそそくさと着始める。
俺はなおさら見てはいけない気がして目を逸らしながら何か話題を探す。
「そういや何で神下に内緒なんだ?」
「えっ? あー、ゆきなちゃんは頑張りすぎちゃうから」
いまひとつ要領を得ない回答だった。言わんとすることは分かるがあいつをのけ者にするほどのことは無いだろう。
歩き続けると最寄りの駅近くまで来る。
「じゃあウチ、電車だから」
「おう、お疲れさん」
そう言って浜辺は駅の方へと走っていく。萬高は一応それなりの進学校だから遠くから来ている生徒もそこそこいる。
スポーツも出来て勉強も出来るとは羨ましいなと思いながら自宅へと歩いて行った。
昨日あれだけ降った雨が嘘のように晴れ晴れとしており、何でも部の部室は欠員なく揃っていた。そして来客もいる。
「浜辺さんのプレー見て感動しました! ぜひ俺にテニス教えてください!」
西島康介と名乗ったその男子生徒は高校からテニスを始めたテニス部の1年。
昨日の例の試合を見てということらしい。
「じゃあ、どこか空いてる場所で練習しよっか」
そう言って浜辺は席を立つ。
「よろしくお願いしまっ――!」
「待って」
それまで黙っていた神下が声をあげる。
「私にもテニス教えてくれるかしら、浜辺さん?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます