第3回 ラブゲーム 

第1話

 4月も終わろうとしている今日この頃。

 馴染みの部室はいつも通り静かであった。

 ただ、その日はいつもに増して静かだった。


 いつもは携帯を触りながらも思い出したかのように沈黙を破り、ここの会話という会話を回す浜辺繋希つなきが今日はいなかった。

「……。」

「……。」


 ひたすらに沈黙が10分、15分と続いていく。浜辺は来ないのかと神下に尋ねる。


「今日はテニス部の方に行ってるわ」

 それもこの何でも部の仕事なのだろうか? と思っていると神下がその意図を察したように答える。

「別に何でも部への依頼ではないから私たちの助けは不要よ。それに……」

 神下は何かをいいかけたがそのまま本に目を落とした。


 再び部室は沈黙に包まれる。

 沈黙は苦手ではない。むしろ沈黙を破ってくるだけ浜辺みたいなのは苦手な部類かもしれない。それでも彼女は空気を読んで話さないこともあるし、俺にリアクションを強要してくることもない。良いやつである。


 ちょうど一冊読み終えてしまいさて、軽くネットサーフィンでもしようかとスマホを取り出すとポロンと音が鳴る。


『部室にいる?』

 メッセージの送り主は「つなき」だった。つまりは浜辺のLINE上での名前だ。


『いる』


『ふるっちだけてにすこーとにきて ゆきなちゃんにはないしょ』


 何で全部ひらがななんだよ。小1みたいな文章になってんぞ。

「浜辺さんから?」

「あー、親からだ。急用出来たから帰っていいか?」

「どうぞ、お疲れさま」

 神下には何故か内緒らしいので俺は適当な嘘を付いて部室を去る。




 なんでも男子テニス部と女子テニス部でコートを普段は日交代でどちらがメインに使うか決めているが昨日はここが別の目的で使われていたせいで今日はどちらが使うかを揉めたらしい。言い争いでも決着がつかず、よりテニスが上手い方がコートを使うとのことで1年生からダブルス2ゲーム先取の試合で決着をつけることになった。

 俺はその公平な審判に抜擢された。


「なんで俺なんだよ。他にお前なら知り合いいるだろ……」

「だって暇でしょ?」

 そうなんだけどさ。

 自分の記憶しているテニスのルールでは不安だったので男女各々1名が副審を務めることになった。


「しまってこぉー!!」

「おぉーー!!」

 円陣を組んで、コートに出てきた女子側は肌を綺麗に焼いた見知らぬ女子と、もう一人は見知った女子。

 浜辺、お前が出るのかよ。


 お互いに1年生の中でも選抜された上位のプレイヤーを出してきたはずだが驚いたことに浜辺はテニス部員どもに対してほぼ無双と言える勢いでバンバン得点を稼いでいく。

 早くも女子側が1ゲーム先取し、続く2ゲーム目も女子側が大きく優勢で進んでいく。

 男子側のコートから罵声が飛び交う。

 サーブ権が男子部員の一方に回ってきたそのとき――


 突然、空が曇り出し雨が降り出す。外にいた生徒が皆、屋根のある方へ避難していく。ゲリラ豪雨というやつだろうか。


 結局、その日試合は打ち切られテニス部含め運動部は室内トレーニングをすることになったらしい。

 用無しとなった俺はさっさと帰ろうと濡れないよう道を選びながら昇降口へと向かう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る