第3話
神下の描いた似顔絵は依頼者もうなずく出来だった。これのおかげで尋ね人はすぐ見つかるだろうと思われ、今日はもう下校時刻まであまり時間が無いので本格的な捜索は明日に落ち着いてやろうということになった。
そのため依頼者には先に帰ってもらい、今日はこの部も解散することになった。
俺たちは横になって東棟3階の廊下を歩いてゆく。スマホをポチポチしながら浜辺がふと口を開く。
「う~ん、その人今も茶髪だったら結構目立つよねー」
「いや今は茶髪じゃないだろ。でも派手に染めてるってだけで覚えられてる可能性は高いな」
「そうね、明日は他の部活を回って聞き込みをしましょう」
「うん。ウチ、友達にも聞いとくね」
次の日、依頼者の野村含め俺たちは他の部活にお邪魔して聞き込みを開始する。
運動部から文化部へと順に聞いて回った。全生徒から聞けた訳では無いが結論から言うと収穫ゼロだった。
「そういやウチの友達もみんな知らないってメッセージ着てたよ」
浜辺の友達ネットワークも全滅らしい。色々な部活を回っていて分かったことだがコイツは友達が多い。特に運動部の友達が多いらしい。友達と一口に言ってもその付き合いの深さは様々だろうがとにかく行く先々でコイツの顔の広さにが役に立った。一々、「俺たちは変な部活です」と説明する手間が省けたのは本当に助かった。
俺はほとんど話さず突っ立っていただけだったが。
「もしかしたら……。不登校の生徒という線はあるんじゃないかしら?」
そう神下が発意したことで俺たちは職員室へと向かうことにした。
こちらも結論から言うと収穫ゼロだった。一応部活動であることを伝えてから、まず茶髪だった生徒がいないかと教師の1人に尋ねたが知らないし生徒の個人情報にはあまり答えられないと言われた。次に不登校の生徒について尋ねると1年生では女子生徒が1人不登校であることは教えてもらえた。流石に女子を男子だと見間違えた線は無いということで誰も聞こうとはしなかったが名前まではむやみに教えられないと釘を刺された。
やはり最近は個人情報保護には非常にうるさいらしい。
さて、どうしたものか。
神下の絵のおかげですぐ解決かと思われていた人探しは予想外に難航した。
あまり長いこと部活を抜けられないと依頼者は部活へと戻ってしまった。
そういえばさっきの聞き込みのときにどこかで何か言われてたな。バレー部だったか?
俺たちは一旦、部室に戻り長いシンキングタイムに入る。
「……。」
「……。」
「……。」
神下は本当に手際がよく、自分が描いていた似顔絵とメモをコピーしたものを俺たちは渡されていた。それとにらめっこすること数分。俺は改めて情報を多角的に見ようと思考を巡らせる。
入学式の日に登校してくるのは1年生のみだ。上級生は基本的に休みではある。どちらかと言えば混雑や部活動への強引な勧誘を防ぐための登校禁止に近い。しかし例外的に生徒会役員は登校し、入学式の挨拶に片づけとその後の教科書販売等の業務をこなす。
だが件の尋ね人のネクタイの校章の色。今の1年生は黄色だが、そこから1年生であることは確定している。依頼者の見間違いで実は生徒会役員の上級生だった可能性も一瞬頭をよぎったが生徒会のメンバーは入学式で全員が顔を見ている。それを今日聞き込みした相当数の生徒が誰も覚えていないことなんてことは無いだろう。
いや、待てよ……!
ネクタイの校章の色は3年で1巡する。ということは4年前に1年生だった人は黄色の校章があしらわれたネクタイを付けているはずだ。
では、その男子は在校4年目……? つまりは高校を留年したのか。その人が何らかの理由で、例えば弟妹が今年入学してきてその入学式を見たかったから目を盗んで学校に入ったとか……?
いや、違うか。OBか? ちょうど今年の3月に卒業した人が制服を着て同じような理由で入学式を覗きに来たのか?
完全に思考を巡らすことに明け暮れていた俺はハッと我に返る。
気付けば浜辺は考えることに疲れてしまったのか、お菓子をボリボリとほお張っている。
神下は腕を組んで難しい顔で目を閉じている。かなり考え込んでいるようだ。
「なあ、ちょっと思ったんだが……。」
「何?」
思索を邪魔されたからか、神下は俺を睨み付けるように見てくる。対して浜辺は未だ手にお菓子を持ちながらこちらを向く。
俺は尋ね人が留年した生徒の可能性、OBの可能性をそれぞれ話す。
「…………。そう……。」
妙に間を空けて神下が短く納得の言葉を口にする。
「そうだ。だからもう一度、職員室で3年生についても聞いてみよう。留年ってことは3年生の不登校の可能性がある。OBならもう一度部活を回って聞いてみれば何か分かるかもしれん。」
「なら古木くん、あなたが一人でやって?」
神下はイラついたようにそう短く言い放つと再び思索のポーズに戻る。
なんでこの人こんなにキレているんだろう。そんなに思索を邪魔されたのが癪に触ったのか。それとも俺が聞き込みのときに積極的に動かなかったことを怒っているのか。俺は今まさに留年説とOB説を出したほどに頑張ってはいるんだけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます