第17話 交戦3
妖が、二体に増えてしまった。
片方はまだ身体を修復している最中で大人しいが、もう片方はさっさと下半身を創り上げて暴れ始めた。
分裂した妖は雄叫びを上げると、木々をなぎ倒さんばかりの勢いで山を下りようとする。
「まずい!山の麓は民家がある!百合之丞!十五!」
百合之丞さんと十五さんは妖の攻撃をさばきながら、器用におじさんのもとへ走る。
「こっちの妖はなんとかする!そっちは弓達で祓ってくれ!」
おじさんがそう言って下山しようとする妖を追い始めたと同時に、もう一体の妖も角を生やしながら立ち上がる。
どうやら僕は関係が微妙な多々良くん達と、即席で共同戦線を張らなくてはならないらしい。
胃の底が、重たく沈み込む。
いや、そんなこと言ってたらダメだ。
僕は頭を降って、ネガティブな思考を一時的に吹き飛ばす。
「若葉さん、いけそうですか?」
「分裂して霊力が半分になった。動きや体格はさっき祓った妖よりデケェが、霊力自体はほぼ同じだ」
長く枝分かれした長大な角を、妖は煩わしそうに頭を振ると、完全に生やしきった。
これでたぶん、妖は完全体だ。
そんな妖のすぐ近くを、人影が駆け抜ける。
キョンシーのように額に札を貼り付けた、多々良くんだった。
額だけじゃなく、腕や脚とあちこちに貼り付けているようだ。
「多々良くん!」
「うるさい!僕に命令するな!」
多々良くんは叫びながら、妖に突進する。
「危ない!」
妖の角が、多々良くんに向く。
彼はその動きが最初からわかっていたかのように避けながら、器用に角を掴む。
曲芸のように軽やかに枝分かれした角から角へ飛び移ると、根元まであっさりとたどり着いた。
彼は角と角の間に、懐から取り出した札を貼り付けると、妖を蹴りつけた勢いを使って距離を取る。
「『弾』」
札が一瞬白い光を四方に放つと、そこを中心に爆発する。
肉塊は飛び散る途中で、蒸発して消えていった。
『グァァ』
妖は頭部が弾け飛んだことでバランスを崩したのか、木にもたれかかる。
それなりに太い木なのに、メキメキと音を立てるとそのまま妖ごと倒れてしまった。
「『牢』!」
その隙を逃さないように、多々良くんは叫ぶ。
地面から光る糸が勢いよく天へと伸びると、妖を取り囲むように生えた糸は、籠のような形になって妖を閉じ込めた。
「吹美実、撃て」
多々良くんの合図とほぼ同時に、どこか上の方から発砲音がした。
妖が体を修復する間もなく、数発の弾が撃ち込まれる。
妖は絶叫することもできなくなっていた。
多々良くんは銃弾でえぐれた妖の傷に、躊躇なく腕を突っ込むと、何かを取り出した。
「あっ」
以前若葉さんが児童養護施設で祓った妖から取り出したものと同じ、玉だった。
鈍く光る紫色の玉を取り出すと、多々良くんは満足そうに口を歪めた。
「おい」
彼は僕の方を向くと、顔の横まで玉を掲げて、得意げに目を細める。
「僕のほうが、お前より優秀だ」
短刀を取り出して、玉を破壊する。
すごい。
あまりにも手際が良かった、良すぎた。
なのになんだろう。
僕は苦笑する。
ちょっと、ムカつくぞ。
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