第13話 初陣2
東京都は広い。
僕は東京に来るまで、この街は全部ビルで構成されているものだと思っていた。無機質なコンクリートが埋め尽くす都市だと。
けれど案外そうでもなくて、普通に住宅街はあるし、中心部から離れれば田舎だってある。
「ようこそ、おいでくださいました」
神主さんが、頭を深々と下げる。
白髪の髪を七三に分けた、年老いた男性だった。
車を降りたのは、本当に東京かと疑いたくなる山深い神社。
何色もの多種多様な緑が取り囲む森に、鮮やかな朱色の鳥居が異質に映えていた。
「妖は」
おじさんが言うと、神主さんはチラリと後ろに目線をやる。
「後方の結界に閉じ込めております」
目線の先は、地下に潜るような洞窟。ツタやコケで真緑に染められた岩肌が、所々からのぞいている。
太いしめ縄がかけられていて、一目で何かあることがわかった。
ビル風のような風の唸り声が、洞窟から聞こえる。
「……静かですね」
「えぇ、今は眠っておるのでしょう」
神主さんは洞窟の上に生い茂る木を見上げると、シワの刻まれた目尻を下げた。
「ご神木の霊力のおかげで、抑えられております。陰陽師殿の遣わしてくださった、樹木医殿のおかげでしょうな」
おじさんは「それは良かった」と微笑むと、神主さんは一礼して立ち去った。
おじさんはくるりと振り返って、僕の方をみた。
「さて、妖は洞窟の中。どうするべきかな?」
「まずは──」
「術を使う」
僕の発言を遮るように、多々良くんが断言した。
驚いた顔で彼を見る僕が見えていないかのように、多々良くんは続ける。
「俺の術で、洞窟内部にいるうちに仕留める」
「仕留められなかった場合は?」
おじさんに間髪入れず突っ込まれ、多々良くんは唇を噛む。
「多々良の術は確かに威力があるが、その分規模も大きい。結界を壊すリスクがある。万が一結界が壊れ、妖がその拍子に逃げてしまえば、市街地への被害が出る恐れもある」
多々良くんは何か言いたそうに、おじさんを睨む。おじさんは気にする様子もなく、「弓」とだけ言った。
「えっ……と」
おじさんの後ろの洞窟を、一度観察する。
地下に潜るような形だと思っていたけれど、もっと斜面が急かもしれない。ほぼ落下する形になるかも。
それと、たぶん洞窟の内部は狭い。あまり大きな武具だと、こちらが不利になるだろう。
「短刀とか武具の小回りが利いて、機動力があるメンバーで入ります。大きめの武具のメンバーは、妖が結界を破って外に出てきたときのために待機、ですかね」
「うん、百点」
おじさんは満足そうに頷く。
それとは対照的に、多々良くんは僕のことを恨めしそうに睨んだ。
「私と十五と若葉と弓で結界に入る。百合之丞と吹美実と多々良は、外で妖が出てきたときのために待機」
おじさんの指示に全員頷き、それぞれが武器を用意する。
いや、一人だけすごく納得してなさそうな顔してる。
多々良くんはまたしても僕を親の仇のような顔で睨むと、拗ねた顔でそっぽを向いてしまった。
「総員戦闘準備」
おじさんの声で、一気に場が引き締まる。
普段は眠たそうにしている十五さんですら、集中して結界を見ていた。
「行くよ」
おじさんが言うと同時に、若葉さんが洞窟に足を踏み入れる。
次におじさん、僕、最後尾に十五さんの並びで、洞窟の入口にかけられたしめ縄をくぐった。
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