結界 / shrine

「まだ着かないのかー?」

「全然、木しか見えないね」


 ツキヒメは悪態をつきながらも道なき道を進み足が棒になるほどに歩いた。姫だった頃は瞬間移動で楽していた又休んでいた為、長く徒歩で移動することに慣れていなかった。


「どこにあるんだゴミ神社」

「え、アレじゃないの?」


 ツキヒメが弱音を吐いたとき、オロチは目の前にある鳥居を指していた。ツキヒメは鳥居を目を細めて見てみると「清明神社」と書かれていた。ようやく辿りつき見つけた。


「やーーーっと、アイツを殺せる。切り刻んで馬のエサにでもしてやる」

「馬は食べないと思うよ」

「五月蠅い。正論は受け付けてません」

「横暴だ・・・」


 ツキヒメはオロチに向かって刀を投げた。刃の先端がオロチの身体に突き刺さる。


「痛い痛い痛い!!何するのさ、ツキヒメ!」


「口答えするからです」


 オロチに刺さった刀を乱暴に引き抜き鞘に収め、神社へと歩いていく。「え?待ってよー」と小さくなったオロチは地を蛇行し後に続くのだった。 


 清明神社へと辿りついたツキヒメ・オロチは何故か正々堂々と参道を歩いていた。神社の関係者にバレれば新たな敵兵が追ってくる、そんなことは誰だって分かる。


「なんで参道なんて律儀に通ってるの?」

「道外れ、なんて無粋なことできるか」


 参道を歩くには中央を避けて進むのが神様への敬意の現れ、なんて姫君さまに教えられたっけ。ツキヒメは参道の端を歩きながら真っ直ぐ見て歩いている。オロチは「ふーん、そっか」と多分理由は分からずに付いて来る。


「しかし、まあジジイには勿体ない位の神社だな」


 参道をゆっくりと歩くツキヒメは辺りを見回しながら呟く。歩いても参道は続いていく。そろそろ本殿や拝殿、どちらかへ続く階段など見えても良い頃だろう。


「歩いても歩いても歩いても歩いても一緒じゃないか!」

「やっぱり罠なんじゃ・・・」


 出発する際にオロチが言っていたことを思い出す。しかし分が悪いツキヒメはこう言う。


「知らん」


 大雑把で計画性のないツキヒメ。参道を歩いても風景は変わらずループしているようだ。きっと妹たちの誰かが作ったものだろう。


「ここまで来て姉の邪魔するとは、お仕置きをたっぷりしてあげないとな」

「で?どうするの、ここを抜けないとお仕置きもできないよ」


 蛇行して前に出たオロチが話す。イラついたツキヒメはオロチの尻尾を踏んだ。


「いっ!!!!った!!!」


 尻尾が急所だったらしい。踏まれたオロチは飛び跳ねた。踏んだことによってツキヒメは満足したのか来た道を戻りはじめた。


「痛たた・・・、ってどこ行くのツキヒメ?」

「は?押して駄目なら引いてみろ」


 オロチはツキヒメの言ったことは理解できていなかった。


「ど、どういうこと!?使い方間違ってると思うよ~」

「馬鹿は黙ってついて来なさい」


 ツキヒメ・オロチは参道を降り、本当に最初の地点まで戻れた。鳥居をくぐり抜けるとオロチはツキヒメに話しかける。


「戻ってこれたのは良いけど、入れないよ?」

「これだから馬鹿は・・・」


 ツキヒメはおもむろに鳥居をくぐらず参道に入った。


「神様ごめん、こうするしかないんだ」

「????」


 オロチは訳も分からずツキヒメにならい同じく参道へ行く。これで解決するのか?と半信半疑だった。


「同じ道を行ったり来たりと、面倒くさいマネしてくれる」


 すると参道の先に階段が見えてきた。オロチは未だループから抜け出した正解を分からずにいた。


「どうして同じ道を繰り返すのを回避できたの?」

「まだ分からないのか?馬鹿蛇。鳥居に変な細工をしたんだろ」


 ツキヒメは階段の手前で立ち止まるとオロチに向かって話を続ける。


「鳥居は神域と俗界を区別する、すなわち結界の門だ。律儀に通ると結界の罠にハマるってわけ」

「へー・・・知らなかった。ツキヒメって意外と物知りなんだね」

「殺すぞ、駄蛇」


 意外と、という言葉にイラついたツキヒメ。ツキヒメはオロチを置いていくように階段を登っていった。


―――――――――


「それは五年前。姫君が亡くなられ、姫君を世襲する予定だったツキヒメは更に力を欲し禁忌である丑の刻参りをわたくしめに強要しました。そこで丑の刻参りだと信じさせ泰山府君祭で力の封印を施しました」


 恐らく寺小屋である教室で安倍晴明が語っている。異様にも女児しか居らず、皆の顔は死んでいるように見える。


「わ、晴明さますごい・・・」


「さすが晴明さま、すごいです。お強いのですね」


 女児たちは、あからさまにわざとらしく安倍晴明を褒めている。それに気づかず鼻高々に語り続けるさまは腹立たしいものだった。


「力の封印で成す術もないツキヒメは、わたくしめと姫さまたちで撃退し―――」


 安倍晴明が語る途中で腹部に刀が刺さる。貫かれた安倍晴明は刀を握りしめると、その手からも出血し足元には血が滴り落ちる。


「グぁ、あァ痛い、抜いてくれえェ・・・」


 安倍晴明がそういうと腹部から刀が抜かれる。腹部に穴が空き、穴からは大量の血が噴き出す。目の前にいた女児たちに降り注ぎ、あたかも血の噴水と化した。

 安倍晴明が絶命する寸前にこう話す。


「だぁ、誰だあぁァ、わたくしめ、に、こんな事を、する、輩は・・・」

「はじめまして、さようなら。月姫(ひめぎみ)さまです」


 安倍晴明が絶命した。これで封印されていた姫の力を行使できると思っていた。しかし、力が微弱なため武器の換装しか行えないでいる。完全な力が戻ればすぐさま妹たちを皆殺しにするつもりだった。思い通りにいかなかったツキヒメは不機嫌そうに。


「あの陰陽師あべのせいめい、余計なことしやがって」

「術師を殺せば封印が解けるはずなのにね」


 安倍晴明はツキヒメの力を封印だけでは飽き足らず、恐らく妹たちに分け与えたのだろう。どんな術を使ったのか不明だが、そう考えると辻褄が合う。


「あ。」

「どうしたのツキヒメ?」


 ツキヒメはその他に重大なミスに気が付いた。


「妹たちの居場所を聞くの忘れた。クソジジイすぐくたばってんじゃねえよ」

「自分が殺したくせに・・・」

「ああん?」


 ツキヒメは怒りを安倍晴明に向け、屍を蹴っている。背中を踏みつけ、横腹を蹴り上げ、頭にかかと落としと倫理的に女児たちには見せられない姿を見られてしまった。

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