火炎 / blue

 コトヒメは召還された九頭竜に命令を下すと、竜に飛び乗った。本殿の上空に巨大な竜が舞う。9つの竜頭がこちらを睨み付け、牙を剥き噛み付こうとしてくる。


「オロチ!!」


 ツキヒメが指示するとその小さな身体が一瞬にして巨大な蛇に変化する。オロチは九頭竜に向かって火炎球を吐き出す。猛速の火炎球は九頭竜を包むも、余り効果がない様子だが怯ませることが出来た。


そなたたちを媒介にしたソレらは脅威にはならないな」

「そんなの、やってみないと分からないですよ」


 コトヒメは竜の身体の上から弓を構え、竜はこちらに突進をしてくる。突進と同時に矢が射出されツキヒメを狙うも【陰陽丸】で弾く。オロチが回転を行い、尻尾で打撃し突進してくる竜を抑えるもオロチにダメージが伝わる。


「健気な御蛇。攻撃を捌くのでいっぱい、いっぱいじゃありませんか」

「勝手に言ってろ」


 ツキヒメが反論すると、コノエのリードをアンチンに押し付けオロチの背に飛び乗る。


「俺、こんなクソ趣味ないんですけど?」


 男同士が縛り、縛られのような異質な絵柄になってしまった。アンチンは腹が立ったのかコノエの顔面を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたコノエは「アへェ、イッてしまいますう」と気持ち悪い言葉を残し意識を失った。


「飛べ、オロチ。あいつらを叩き落とす」

「うん!頑張る!」


 漆黒の蛇体から似合わぬ白い翼を生やすと飛翔する。翼をはためかせると突風が発生し、アンチンは吹き飛ばされそうになる。コノエは地面をズズズッと風圧で移動し、それに足を取られたアンチンは転倒している。


「お姉さま。空中散歩と致しましょう?」

「其方と何か散歩したくはないね」

「そんなつれないことは言わずに」


 言葉を交わすと九頭竜は衝撃が走るほどの猛風を発生させ樹海の方向へ飛び去り、続いてオロチも後を追う。九頭竜の飛行速度が上がっていくと樹海の木たちが左右に揺れ葉が舞い落ちている。それに続きオロチも速度を上げていく。

 九頭竜が上空へ飛翔し続け旋回するとこちらへ倣う。その景色は南部地帯の自然を一望でき、澄み渡る青がとても美しかった。


「お姉さま、別れの挨拶をしなければなりません」

「そうか、遺言でも残してくれるのか?」

「・・・、そのチカラ、あたしが貰い受けます」

「姉の物を欲しがるなんて、可愛い妹だな」


「 「  殺す  」 」


 2人は同時に宣戦布告し、2体の龍が吠える。吠えた九頭竜は9つの口内に火炎を纏う。予兆なく9つの火炎球が放出される、オロチは上空へ飛翔・旋回し火炎球を避ける。続いて九頭竜が火炎球を放ちオロチを襲う。急下降し火炎を避けるも片翼に1発直撃する。


「お姉さまのチカラはその程度だったのですか?」

「譲ってあげたんだよ、調子乗るなガキ」


 片翼には微かに焦げたような痕がある。オロチは踏ん張るも、低空飛行するオロチを上空から火炎が狙う。火炎はオロチの尾スレスレに外れ、樹海を燃やす。火の手が回り始め一帯は火の海になりつつある。


「火遊びするガキにはお仕置きが必要だと思わないか?」


 低空飛行からツキヒメは【波動砲】を放ち、波動は九頭竜の足元に迫るが一回転し難なく避けられる。勢いに乗った九頭竜は急下降し、足爪を立てて蛇体に目掛け突進してくる。急降下してくる九頭竜を避けられないと悟ったコトヒメは叫ぶ。


「ハッハッハ!お姉さま、これで幕引きとなります」


 コトヒメの声が轟くなかオロチは翼を畳み九頭竜へ倣い一瞬の浮力中に口内に溜めていた火炎球を上空へ放出し、翼を広げ高速で飛行する。その風圧で木々が薙ぎ倒されていく。

 放出した火炎は九頭竜を包みもがくも炎上した翼は鎮火しないため、バランスを取るのも精一杯な様子。


「幕を引くのはワタシの方だ」


 オロチは飛翔し九頭竜さえ飛び越すと雲を突き抜ける。天界飛翔、この世で一番天界に近いのはツキヒメかもしれない。

 一面に広がる青に驚く、若干燃える樹海も目に入るが9割がた青を占めるだろう。ゆらゆら流れる雲、殺し合いの真っ最中なのに何故か感動をしてしまった。

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