拘束 / cruel

「使えない侍従だな」


 その声が響くと波動が蛇状の矢を破壊していく。カランカランと空中を舞っていた矢たちが落下し、落ちた矢は次々と光を失い蛍が絶命するように消えていく。


「お姉さま、遅いじゃないですか」

「何も遅くはない。先行演奏なんて聞いていないな」


 ツキヒメは連なる鳥居から現れ、何やら拘束されている男性がいる。その後ろからはオロチが申し訳なさそうに縮こまっている。拘束されている男性は縄で繋がれ、あたかもリードをつけられた犬のような状態。


「ゲリラライブですからね。視聴料請求します」

「アンチンと遊んだのだろう?特別料金もらわないと、御釣(ちから)をよこせ」


 ツキヒメは石床をカツカツと音を鳴らし歩く。繋がれた男性は歩み出すのが遅く首元が引っ張られ「ン、気持ちい」と恍惚な表情をしている。気持ち悪い。

 男性を蹴っ飛ばしわざとコトヒメの前に差し出し、アピールするかのように手綱を持つ手を上げた。


「コノエ。無様な姿ですね」

「ハッ。申し訳御座いません、コトヒメさま」

「貴方に渡した天下五剣、【鬼丸】。無駄になったようね。あとで分からせないと」


 地に這いつくばりコトヒメを見上げるようにしているコノエ。コトヒメは飼い犬を躾けるかのように話す。コノエはお仕置きされるのが至福なのか嬉しそうな顔をしている。再び言わせてもらうが気持ち悪い。

 ツキヒメは晴明神社で拝借した大太刀、【陰陽丸】を軽々と持ち上げコトヒメに刃先を向け話す。


「其方に“あとで”はない。ここで死んでもらう」



―――――――――



 アンチンと分かれ、連なっていた鳥居を抜け出すとオロチはコノエに捕らえられていた。【鬼丸】で体中突かれており、どちらかというと擽ったいと思っていたオロチは「やめてー」などコノエと“遊んでいた”。


「ウッ、蛇・・・気持ち悪い。けど、この嫌悪感とても感じます」


 意味不明なことを言っているコノエをお構いなしに尻を蹴っ飛ばした。予兆もなく尻を蹴られたコノエは顔面から吹っ飛ぶと、オロチと口づけをしてしまった。


「この無理矢理されている感、感じます。ンンッ、イッてしまいます」

「そうか、じゃあ逝ってしまえ」


 どこまでも気持ち悪いコノエを、汚物を見るような目で見下す。その視線すら感じてしまうらしい。オロチはどうやらコノエと口づけをしてしまったショックで失神している。駄蛇を枕にして転んでいるコノエの足元までいくと何やら抵抗しない。


「死にたいのか?」

「お仕置きは至高の喜びです。ぜひとも」

「何か喜ばせるのも癪だな」


 ツキヒメは縄でグルグル巻にし、コノエを放置プレイの刑にすることにした。縄で縛られる過程でコノエは暴れながらも叫ぶ。


「なんて殺生な仕打ちですか!これは~~~~~~!」


 何やら暴力的な手を下されない事柄は嫌らしい。偶然にも嫌がらせが出来、ツキヒメは意外と上機嫌であった。失神した蛇を枕にして縄で縛られる男性、縛る女性。なんともカオスな状況だった。



―――――――――



「という訳だ」

「クソ全然わからないんですが」


 格好つけてコトヒメに言い放ったのに説明を求められたため、悠長にもアンチンに事の経緯を説明した。事細かく説明したのに、この男は理解できなかったらしい。


「長話は終わりました?いい加減、ずっと話聞いているだけは飽きてきます」

「其方は御喋りスズメだからな」

「そんな下等な生物と同じにしないで頂きたい。コノエ!何をしているのやりなさい!」


 コトヒメが叫ぶとコノエは祓詞を詠唱する。


「掛けまくも畏き、伊邪那岐大神。第四の句。御禊祓いたまえ、生り坐せる大地神たち。諸々の禍事・罪・穢、祓いたまえ。聞こし召せとかしこみ、かしこみ申す。伊邪那岐大神よ、我がコノエの言葉を成し遂げたまえ 」


 詠唱が完了すると、幾何学な紋様が現れ発光する。発光した紋様から高速で天空に舞い上がる生物。鱗が無数にあり、空でウネウネと回るとこちらへ倣う。その首は9つあり、顔の色は様々に色が違っていた。

 ある首は紅、青、白、黒、紫、橙、水、緑、中心から生える首から尻尾までは黄金に輝く。


「さあ、九頭龍。お姉さまを殺して」

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