射出 / finale
「ごきげんよう、アンチン」
永遠と続く赤にウンザリしていたアンチン。回想を終えると最後の鳥居を潜り抜け、正面には本殿が見えた。本殿へ続く階段に行儀良く座っているコトヒメの姿があった。深緑に染まった着物を着崩し谷間を強調、薄暗い茶色の髪を耳に掛ける。
「姫さま、お前の侍従はどうしたんです?」
「ただいま業務中なのでいません。ところで貴方が来たということはキヨヒメも?」
「俺はもうキヨヒメの侍従じゃない。ツキヒメの侍従だ」
「お姉さまと・・・。謀反を犯してまで付き従う程の価値がお姉さまにあるのですか?」
「確かに、価値はないかもしれないな」
アンチンは淡泊に答えた。コトヒメは柔らかく口の前に手を当て笑い掛けてくる。「そうでしょう、そうでしょう」と言いながら微笑みかけ話しかけてくる。
「それじゃあ。アンチン?あたしの侍従としてこっち側に加わりなさい」
「そんなこと、死んでもクソ願い下げだ」
「貴方、ツキヒメと一緒にいる事は余すことなく、その身は危険に晒されます。どんな惨たらしい死に方をするか分からないですよ。もう一度聞きますが加わりなさい?」
長ったらしく状況説明してくる事にイラつき、結論だけ言えよと思っていたアンチン。いつもの如くコトヒメに噛み付く。ツキヒメへの誓いを建てた日から、身が滅ぼうとも侍従であると決めていたアンチンはコトヒメへ中指を立てた。
「チッ、何度も聞くなよ。クソお断りです」
「ふうん。それじゃあ、ここで死んでもらいますね」
コトヒメはこちらへ目掛け弓を放とうとする仕草を行う。姫の力【光の弓】。構えると手元は発光し、その手には弓が持たれているかのように見える発光体が現れる。右手を引くと弦がしなり、矢が装填されアンチンの額を狙う。
「それもクソ御免こうむりますよ、姫さま」
「もう命乞いをしても遅いですよ。第1楽章。
手元から矢が射出される。こちらは刀を抜き矢に目掛けてひと振り、目に止まらぬ速さの矢を打ち落とす。
「クソ容赦しねえな」
「情けは無用、ここで死んでもらいます。お姉さまはどんな反応をしてくれるのでしょうね?」
1発では終わらず、連続で放たれる矢がアンチンを襲う。カンッ、カンッと迫る矢を刀で弾く。矢を刀で弾く芸当はかなりの繊細な技術が必要になる。矢を弾いたアンチンは、すかさずコトヒメへ走り出す。
「良いですね、良いですね。楽しい演奏会になりそうです」
「クソほど楽しくないお遊戯会の間違いじゃねえのか?」
「もうじき、その減らず口を開けなくさせて頂きます」
「その前にお前を殺せばいい」
「姫のあたしを簡単に倒せると思いますか?」
コトヒメの元までおよそ4メートル。刀の先端を向け突進していく、間近に迫ったアンチンをみて微笑む。コトヒメは弓の弦をパンと引っ張り離す。
「第2楽章。射刺す、
弦がパンッと高らかに響かせる。弦が鳴ったと同時に、目前に無数の弦が立ちはだかり近づくことが出来ない。すんでの所で止まり、細切れになるのを防いだ。
「残念です。バラバラになってただの肉の塊になれば良かったものを」
「こんな分かりやすいもの、易々と当たるとおもったらクソおめでたい頭してるな」
「どこまでも生意気な侍従ですね」
「クソ愛嬌があっていいんじゃないですか?」
コトヒメは笑い手を横にかざすと複数矢が手元に現れ掴み取る。掴み取った矢を弓に装填し狙いを定める。コトヒメは対話を楽しむかのような表情をしていた。
「ええ、たいへん愛嬌があって退屈はしなさそうですね。あたしと沢山の会話を交わして頂いて感謝していますよ。でも、貴方のことは殺さないといけない」
「俺はもうお前の話は飽き飽きしていますよ。クソくだらない」
「フフッ。あたしの感謝の気持ちを受け取って下さい。第3楽章。射刺す、
射出される矢の雨が降り注ぐ。こんな礼を受け取るなんて御免こうむる。舌打ちをしたあと。左足後ろに踏ん張り、刀を大きく回すように斬る。大きく円を描くと複数の矢が足元に散らばる。攻撃を防ぐ一方で近づくことができないアンチンは劣勢に見える。
「こんなお礼のクソ品なんて受け取れない」
「嫌でもいずれ受け取ってもらいます。アンチン、刀1本でここまで立ち向かうなんて凄まじいですね。でも、勇気と無謀の価値は違いますよ」
「良く話すクソ姫だな。さっさと死ね」
「貴方が死ぬのですよ」
コトヒメが大きく腕を引き絞る。弓を象る物は一層輝きを増していく。弓は形状が変化、巨大化が起きたあと目を刺すような痛みを伴う輝きを見せる。弓には無数に装填された矢が見える。この数は流石に捌き切れないほど。
「お話を沢山しましたので満足しました。これでお別れです。最終楽章。射刺す、
巨躯弓から射出された無数の矢は四方八方へ飛ぶ。矢は狙いが外れた方向へ飛ぶ、外したかのように見えたがこちらへ方向転換し向かってくる。全力疾走し矢を避け、刀で跳ね返そうとも追尾してくる。
「矢の大盤振る舞いってか。クソサービス良いじゃねえか」
「逃げることは出来ませんよ。必中の矢、ですから」
矢は速度を変え、不規則な方向へ飛び回る。その矢は獲物を確実に射殺すために生きているかの様に。何度も避け、刀で弾き返すもこちらへ向かってくる。
「クソ面倒くせえ矢だな、いつまでネチネチついて来るんだよ」
「貴方が死ぬまで追い駆けますよ」
「矢にモテるなんてクソ嬉しくないんですが」
言葉を交わしている間に矢は空中を舞い群れを成す。頭上をグルグルと回りはじめ、徐々に蛇を形成されているように錯覚する。大きく開口するかのように動き牙の様なものを覗かせると、一斉に速度を上げ降り注いでくるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます