二道 / decision

 血しぶきが木を染めていたり、見るも無残な姿になったモノノケ。辺り一面を鮮血でペインティングしたかのような風景になっていた。血が続く道をひたすら辿っていく、拓けた道が現れ惨たらしい数の死体が転がっている。


 その中、1匹のモノノケが立ち上がる。死体の中に死んだふりをして擬態していたのだろう。モノノケは辺り一面を見渡し。


「上手くいったケッケッケ」


 後ろにツキヒメが居るのにも関わらず独り言を発す。モノノケは息を荒げ続ける。


「この先はコトヒメが住む領域。行くも地獄、帰るのも地獄さ。ケッケッケ」

「コトヒメもだが、モノノケも生かしておく必要はないな」


 生き延びたモノノケが一息つくところを後ろから踏みつぶした。ツキヒメは靴に付着した血を地面に擦り付け、血の道を辿って行くのだった。



 どれほど歩いたか分からないが、道を辿るも血痕が途切れていた。途切れた先には、一般男性が潜れるほどの大きさの紅い鳥居が2手の道へ連なっている。その鳥居の間にはアンチンが座りながら俯き休んでいた。


「賢者タイム中か?」

「そんなんじゃねえよ」


 声をかけ顔を上げると、モノノケの血で染まっていた。血で固まる髪をガシガシと掻き揚げ立ち上がる。ツキヒメはアンチンを見やる。


「この先の社にコトヒメがいる。オロチは恐らく捕まっている」

「そんな情報どこから?」

「其方が取り溢したモノノケが言っていたぞ」

「・・・・・。」


 明らかにテンションが下がっているアンチンをよそに二手の道の奥を見渡すも、鳥居は道なりに曲線を描いているため奥の様子は見ることはできなかった。

 2手に分かれている道を一緒に捜索するのは効率が悪いため、ツキヒメは左側の道へ、アンチンは右側の道へ入っていく。


「死体はちゃんと埋めてやるから安心しろ」

「うるさいな、お前こそくたばったら化けて出てこないように供養してやるから」

「ガキが自分の心配だけしてろ」


 いつもの調子で会話を交わしたあと、互いの姿は鳥居の迷路に消えていく。アンチンは再度髪を掻き揚げ気を引き締め、ツキヒメは長い髪を靡かせ堂々と歩く。

 ツキヒメはもし、アンチンとコトヒメが対峙したときの場合も考えていた。しかし、アンチンにそれを伝えるのは無礼であると姫君であるツキヒメは改めた。紛うことなき侍従への心配は無用、それは信頼たる存在だと認め始めている所から来ているのだろう。


―――――――――


 連なる赤が一面に敷き詰められ支柱から覗こうとも植えられている緑に阻まれる。アンチンは鳥居の支柱を順番に触れ、靴が石床をリズムよく鳴らしている。ツキヒメと別れたあと何本の鳥居を通過したのか数えきれなくなった。蛇行する鳥居に右往左往しながら道なりに進む。鳥居は手入れされているのかどれも綺麗で、傷1つも見当たらない。


「クソ。いつまで続くんだよ、コレは」


携えている正宗がカチンカチンと音を立て、いつでも敵が出て来ても良いよう鍔を親指で挙上させ鞘を握っている。

 アンチンはこの時、野宿した夜のことを思い出す。


「なぜ其方はワタシに飽きもせず同行しているんだ?さっさと何処か消えていくかと思ってた」


 横目で見られていることに気づきながらも見られていないフリをした。そんな寂しそうな顔をして見てくるなんて、困ったクソ姫。心のなかで留めているとツキヒメは続ける。


「意識を失ったときワタシを殺せば其方は英雄として崇められ、今後の様々な願いだって何だって叶えられたかもしれない」


 お前は一人が寂しいくせに強がって平気なフリをして毅然として振舞う。何人の妹を殺そうとも変わらず辛辣で暴言ばかり吐く立派なクソ姫として生きていくのだろう。そんなアンチンは本心を言えず。


「俺は殺戮が好きなんです。ツキヒメと一緒に居れば勝手に寄って来るでしょ。そういうの」


 侍従としてツキヒメと共に行動する理由の半分だけ告げた。ツキヒメは焚火の方へ倣うと、その横顔に光源が揺れている。その目にはツキヒメ側の本心、心の炎を見たような気がした。心の炎、それは確実に妹の皆殺しを決心しているそんな目だった。

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