琴 / future
「いまこの空はワタシの物かもしれないな」
「ふふ、そうだねツキヒメ」
九頭竜・コトヒメに一撃喰らわせたあと高く高く飛翔したツキヒメ・オロチは空中から見下ろす景色を楽しんでいた。
言葉を交わしたあと一定時間、滞空すると急降下し突き抜けた雲を再び潜る。目視で九頭竜を確認するとツキヒメは飛び降り、【武器の換装】をしていた三日月を逆手に持ち刃先を下に向けながら降下する。
九頭竜の翼が炎上し続け落下するのも時間の問題。龍体の上に立っているコトヒメ目掛けてツキヒメは落下し、三日月で下突きを保ちながら。
「これが本当の最終楽章だ、コトヒメ」
「お姉さま――」
何かを話そうとした瞬間、コトヒメの脳天を三日月が貫く。貫いた三日月を強引に引き抜くと血の雨が降り注ぐ。血の雨がツキヒメに降り注ぐと透き通った肌に赤が染まる。
落下地点の九頭竜は媒介となったコトヒメに重大なダメージを負った為か消滅しかけの龍体は落下していく。
「ツキヒメ!」
オロチが並飛し飛び乗るように促すとツキヒメはその蛇体へと移る。炎上する樹海を低空飛行し、その光景を眺める。九頭竜が火の樹海へと衝撃音を上げ落下する。
「死んだか確かめないと」
「でも、危険だよ?」
「分かっている。コトヒメも姫だからアレで死んだのか分からない」
オロチは旋回すると九頭竜の落下地点へ向かう。燃え移る木々、南部の7割りは森林が占めるため炎上し回るかもしれない。木々たちが温度をあげているせいか、焼けるように熱い。
九頭竜が落下し倒木している地点があり降下する。飛行状態のオロチはアンチンの元へと行かせるように指示した。
燃え盛る木々の間に僅か火の手が回っていない場所にコトヒメは横たわっている。パチパチと火花を散らし燃焼する木々の間を通りコトヒメの元へ近づくと脳天を突き刺したのにまだ息がある様子。
「アががが、お、おおおねえさささま」
「コトヒメ。今、楽にしてやるから」
三日月を握りしめ瀕死のコトヒメに近づいて行く。燃焼しきってしまった木は倒れはじめ、重低音が鳴る。少しずつ近づくなかコトヒメが譫言(うわごと)の様に発する。
「ししししシし、にたくないよおおおオ」
目前に刃先を向けるツキヒメ。炎上止まず火が辺りを取り囲み灼熱のなか、ある日のことを思い出す。
―――――――
「お姉ちゃん、あはは。風邪引いちゃったみたいです」
座敷の畳上に敷かれた布団のなかで顔を真っ赤に染め床で休んでいる幼いコトヒメ、その手を握りしめ看病する幼いツキヒメがいた。
「無理して御琴の稽古し続けるからでしょ、馬鹿」
「ごめん、なさい・・・」
幼い頃、熱で病んでいたコトヒメは寝込み大好きな琴の稽古を休んでいた。舞踊、篠笛、唄、芸道さまざまな稽古があったが特に琴に励んでいたコトヒメ。些細な体調の変化を顧みずに努力していたが、バチが当たったのだろう。
「しっかり休め、コトヒメ」
「うん・・・そうします、お姉ちゃん」
手を離し座敷を後にしようとすると、コトヒメが手を掴んで離そうとしない。何度振り払おうとも力強く掴んでいる。
「なんだ、コトヒメ」
「お姉ちゃん・・・」
「なに?」
「御琴、お姉ちゃんの音、好きです・・・今度一緒に弾いてください」
琴に対する時間を膨大に注いでいたコトヒメ。そして誰よりも上手に奏でる琴の音色に妹たち、ツキヒメさえ感銘を受けていた。そのコトヒメがせがんできた理由は良く分からなかった。
ただ、後日より姫君としての教育のため滅多に逢う機会は無くなってしまった。
―――――――
「琴姫、またあの世でな」
その言葉を餞(はなむけ)とし琴姫の首を斬り落とすと、首が転がり足元にぶつかる。燃え上がる木々に自分自身も焼かれてしまう程に火の手が増す。
斬り別けた首元から謎の“光物”が現れツキヒメへと衝突し染み込んでいく。そのなか、あの日起きた身体の異変が起きる。
「オエッ、ゥゥ・・・アアアッ!」
謎の白い液体を吐き出すと身体中の骨たちが折れるような激痛が走る。燃え盛る樹海の中心で痛みに耐えようと地面をのたうち回る。何度足掻くも痛みは収まらずついには失神してしまった。
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