鳥居 / hold
女児たちと別れた数日後、西部地帯へ問題なく侵入することが出来た。問題と言えば、絶賛登山中であること。
「足が棒になった」
「はー死にそう」
「もう世界滅べばいいのに」
歩き過ぎたせいかツキヒメの情緒が不安定になりつつある。時折八つ当たりされるオロチ。ツキヒメをなだめるのは骨が折れそうだ。今にでも出会った人を無差別に殺してしまいそうな形相をしている。これが長女だなんて、妹たちの心中お察しします。
なぜ登山をしているかというと、西部地帯にある神社は標高1100メートルの高地にしか存在しないという情報を得たツキヒメ。散々文句を言いながらもようやく中腹はとうに越えていると言うのに全く神社の形さえ見えない。このままだとツキヒメのストレスが限界にきてしまうかもしれないと思った、そのとき。
「裏切りの
「またオニ呼ばわりとは良い度胸しているなぁ?ああん?」
ツキヒメのサンドバッグもとい、敵兵が現れた。オロチは八つ当たりの対象だったので、少々敵兵には気後れするが感謝してしまった。既に【武器の換装】を行使済みだったツキヒメ。安倍晴明の執務室で拝借していた大太刀を肩に背負い仁王立ちしていた。
「本殿へ近づけるな!!!キヨヒメさまはお休みになられている!!!」
「へえ、予想通り昼寝してるって訳か」
敵兵は馬鹿だったらしく躊躇することなく
「討ち取れ!!!」
敵兵が叫ぶと一斉に武器を構えながら突き進んできた。ツキヒメは動こうとせずに未だ仁王立ちのまま対抗する行動を取らずに居た。
「・・・え、行かないの?」
「休憩してるんだ」
ストレス発散の機会、狂乱し戦場を駆け回るツキヒメをオロチは想像していた。想定外の行動を取るツキヒメ、迫る敵兵。不安そうにツキヒメを見つめていると、敵兵は目前。
「恐れおののいたか!!オニ!!」
剣を振りかぶりツキヒメの首へと伸びる。ツキヒメは仁王立ちのまま大太刀を一振りすると剣を跳ね返し、剣諸とも敵兵の首をへし飛ばした。ツキヒメは野球のバットを構える様におよそ100cm以上あるだろう大太刀を構えた。構えたツキヒメはこう叫んだ。
「はい、つぎー!」
投球される玉を待つように構え続けている。敵兵は一瞬ピタリと動きを止めるも、格好の機会だと思い再び武器を構えて走って来る。「ワーー!!」と声を上げながらツキヒメへ次々襲い掛かる。
襲い掛かって来る敵兵を薙ぎ倒すツキヒメ、第1陣、第2陣、第3陣・・・と倒れていく。全員で掛かってくれば良いものの、律儀に一人ずつやって来るものだから通算最高塁打を記録してしまった。ツキヒメが次狙うはこの世のホームラン王かもしれない。
「もう飽きたなこれ」
投げた大太刀は逃げ損なった敵兵に突き刺さる。ホームラン王にはならなそうだった。
敵兵を薙ぎ倒した一帯には屍の山が出来上がっていた。屍たちをギシギシと踏み越えていくツキヒメ、殲滅するツキヒメを何も考えず眺めていたオロチはハッと我を取り戻し付いていく。突き刺さった大太刀を引き抜き、素振りし血を飛ばした。
―――――――――
再び幾分か登山したあと、変わった鳥居が建っていた。三ツ鳥居。1つの鳥居の両脇に小規模な2つの鳥居を組み合わせたもの。それに連なる瑞垣。三ツ鳥居の中央の鳥居の御扉は閉じられている。ツキヒメはそれを目にすると立ち止まった。
「へえ、粋なもの建ててやがるキヨヒメのくせに」
「これがどうかしたの?確かに変わった鳥居だけど・・・」
ツキヒメが話すには三ツ鳥居が結界の役割を担っているのは他の鳥居と変わらないが、これ以降禁足地を指している。普段は神職さえ踏み入れない神聖な場所。ツキヒメは御扉の前まで行くと、換装し大太刀を手にすると叩きつけ強引に御扉を開けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます