喧嘩 / summon

 開かれた御扉の先には通常だと石製の狛犬が2匹いるはずだが、ここには石製の狼が鎮座していた。ツキヒメはあることを感じた。


「妙だな、狛犬ではない」

「それがどうかしたの?」

「姫君は御犬信仰だった」


 姫君の教えさえも破ったのか?ツキヒメは思案した結果それに至った。姫君(はは)をも完全に捨てたというのかキヨヒメ。ツキヒメは舌打ちをし石製の狼を手にしていた大太刀で破壊した。


「破壊は、本当に弁償してもらうのですツキヒメ。やっと来たのですか、五年は長すぎる冬眠だと思うのです、無駄な時間だったのです」


「そして、他の妹たちはどうしたのです?」

「どうもしてない、其方を先に殺しておこうかと」


 ツキヒメは換装し臨戦体勢を取る。キヨヒメと対峙したときより、すくすくと大蛇へと変化するオロチ。オロチに見下されるキヨヒメと侍従。そんなことお構いなしにキヨヒメは話し続ける。


「ツキヒメ、力を失った気分はいかがなのです?しっかり弁償してもらいました」

「ガキが。姉のプリンちから喰った気分はどうだ。こっちこそ弁償させる力づくでもな」


 ツキヒメが言い放った言葉と共に姉妹喧嘩殺し合いが始まろうとする。続いてキヨヒメの侍従が祓詞を発する。


けまくもかしこき、伊邪那岐大神。第三の句。禊祓いたまえ、せる大炎神たち。諸々の禍事まがごとつみけがれ、祓いたまえ。聞こし召せとかしこみ、恐み申す。伊邪那岐大神よ、我がアンチンの言葉を成し遂げたまえ 」


 祓詞を詠唱するとキヨヒメの隣に幾何学な陣が描かれる。陣から湧きだすのは蛇体に角が生えている大蛇だった。


「趣味悪いもの出しやがって、妖怪大戦争でもするつもりか?」

「ツキヒメこそ同じなのです。無駄な言葉出させた弁償するのです」

「ボクは蛇じゃないけどね」


 オロチは姉妹に言うのだが無視されてしまった。召喚された蛇の名はヤトガミ。ヤトガミはオロチに向かって喉を震わせ威嚇している。一触即発、ヤトガミはオロチに噛み付こうとするもオロチは一回転し尻尾を顔面に喰らわすのだった。


「弱っちいみたいだな」

夜刀神ヤトガミが壊れたらその蛇で弁償してもらうからいいのです」

「抜かせガキ」


 ツキヒメは換装した刀を構えキヨヒメへと迫ろうとする。キヨヒメは持っていた枝をツキヒメへと投げる。投じられた枝は剣に姿を変え、巨大化しツキヒメへと迫る。持っていた刀を巨大化した剣に投げつけた。軌道が変わった剣をすんでの所で避けた。


「危ないじゃねえか。姉を敬った行動しろよ」

「ちゃんと敬って殺してあげるのです」


 キヨヒメは拾った石をツキヒメへ投げる。石は瞬く間に剣へ変わり巨大化し、ツキヒメを捉えた。ツキヒメは換装し握った大太刀で防ごうと構えた。一方オロチはヤトガミに巻き付き窒息させようとしている。窒息よりも先に蛇骨が折れ頭が曲がり体勢を崩し、キヨヒメを下敷きにして倒れるのだった。


 キヨヒメが下敷きになり効果が切れたのかツキヒメへ投石した物は、ただの石ころになりツキヒメの額に刺さる。額に刺さった石は地面へと落下し、額からは血が流れる。同時にキヨヒメを媒介に召喚されたヤトガミは消え去り、平面的になっているキヨヒメが倒れている。


「死んじゃったの?」

「いや、まだだ」


 ツキヒメはキヨヒメに近づいていくと投げつけた刀を拾いあげる。刀を握りしめキヨヒメを見下ろし、刀を逆手に持ち直した。それを振り上げ最大出力でキヨヒメに何度も、何度も何度も何度も突き刺した。


「ギャあ、ああァああああああグゲがエエエエ!!」

「ヒッ、辞めて辞めて辞めて!死にたくない!」

「グスッ。ツキヒメ姉さまウギッ、わたしたち姉妹でしょ?ウ゛ッ!こんなことする必要ない、わたしがァッ、皆に言うからアッ゛」


 逃げ惑おうとするキヨヒメ、それを大腿部を突き刺し抑えた。命乞いするキヨヒメに、ツキヒメは耳を貸さない。惨い光景にオロチは目を塞いだ。


「そういえばさ。弁償してもらいたいものがあるんだけど」

「な、なんでも弁償する!弁償するからぁ許してツキヒメ姉さま!」


 仰向けで血池に横たわる腹を踏みつけて、返り血で真っ赤に染まった顔から瞳がキヨヒメを凝視する。凝視されるとキヨヒメは石像になったかのように固まり押し黙った。それを見てツキヒメは言った。


「ワタシのプリンちから弁償しろよ」


 脚に刺さっていた刀を引き抜き右往左往と腹や首を切り刻み鮮血が飛び散る。頭上からは季節外れの紅葉が舞い散る。紅葉はキヨヒメを埋葬するかのように覆い被さり、ツキヒメの肩上にも止まった。ツキヒメは紅葉を拾い上げると献花するように、キヨヒメの上へ投げた。

 石床をコツコツ靴音を鳴らして歩いてくるキヨヒメ。キヨヒメの後ろには侍従が控えていた。キヨヒメは降り注ぐ日光に、青白く光る髪を靡かせている。侍従は幼く、少年という印象がある。


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