海水 / fall

 海食・風化によって削られた歪な形状の波紋岩が海へ突き出している様、松の緑・岩の白・海のコバルトブルーが織り成すコントラスト。美しくまさに絶景である。波静かに押し寄せる波紋に海水浴をしているオロチ。


「さながら極楽浄土のごとし・・・」

「海で遊ぶなと言ってるだろう!!」


 岩から吹き抜ける風は磯の匂いがして気持ち良い・・・はずだった。歩いても歩いても砂浜、海、海、海、海の風景に飽き飽きしていたツキヒメとアンチン。一方のオロチは海水浴を楽しんでいるところ叱責を受けた。


「髪がべたついてクソ気持ち悪い」

「チッ。靴にまた砂が入りやがった」


 様々な暴言、悪態をつく二人。海岸沿いに連なる松林と白い砂浜をキャッキャと走り回る男女も又、美しかろうとは思うが。この二人には天地がひっくり返えろうともありえない話だった。燦々と輝く太陽が海、砂浜に反射し照りつけ徐々に体力を奪っていく。


「いつまで続くんですか、このクソ海。もう御免こうむりたいですよ」

「じゃあ今から帰るか?あの世に」

「まだ死にたくないのでやめまーす」


 アンチンは軽口を叩きながらも歩き続ける。オロチは海水浴をしていた為、濡れた身体に砂が纏わりつく。もはや何の生物かは不明である。


「こんなところにクソみたいなツチノコが!」


アンチンはオロチを踏みつけるなどと暴行を働き困らせた。騒がしくする1人と1匹にツキヒメは叫んだ。


「五月蠅い!海に沈められたいのか!」


 岸壁に叫ぶ声が反響してくる。海の色はターコイズブルーへとグラデーションが完成し、真っ白な砂浜に扇状の天然プールが出来ている。アーチ状になっている岸壁の吹き抜けから時折、潮風が吹き荒む。吹き抜けの奥側に亀のような岩石が覗き込む。


「亀だ」

「クソ亀ですね」

「亀だね」


 2人と1匹は声を揃え、亀状の岩へと歩き出す。シャリシャリと砂浜を踏みしめる音が反響する。アーチ状の岸壁に近づくと潮の突風が吹き、髪を靡かせ直そうとするも潮のせいかギシギシするのが気持ち悪い。

 削れた岩を足場にしアーチをくぐる。アンチンは足に海水を浴び「クソ、何でこんな所を通るんだよ」と無駄口をツキヒメに言うものだから突き落とされてしまった。ツキヒメを睨みつけるも、海水に浸かってしまった事で諦め海を泳ぐ。


 アーチをくぐり抜けると、巨大な亀状の岩に紅い橋が掛かっているのが見える。遠くからで良くは見えないが、鳥居らしき建造物が建っているのが見えた。波の轟きがヒステリーを起こした女性のように耳障りだと感じるツキヒメ。


「ようやく見つけたオトヒメ」

「それより服どうしてくれるんですか」

「脱げばいいじゃないか、ガキの青い尻を見ても何も思わないぞ?」

「全裸で戦えって言うんですか」

「もう一本の剣が役に立ってくれるぞ」


 相変わらずの鬼畜ぶりのツキヒメは橋が掛かる方へ歩き出すのだった。岸壁掛けられた橋は潮風により所々の色が剥げている。ガタ、ゴトと橋が軋む音に「欠陥工事か?」とツキヒメの考えは杞憂となる・・・はずだった。


 ツキヒメ、アンチンが渡り切ったあと轟音を立て橋は崩れ去った。

 

 橋を渡りながら「あー綺麗だねーツキヒメ?」「アンチンみて!!魚が水面を飛び跳ねてるよー」など緊張感のない事を連発していた罰が下ったのだろうおよそ14メートルほどある高さから落下していくオロチ。落下する瞬間一度空中で静止したように見えたのは錯覚だろう。


「クソ蛇、落ちていきましたけど?」

「落ちていったな」

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