妹たち / taboo

「オトヒメ。泰山府君祭たいざんふくんさいが執り行われているんだ、見て分からないか?」

「そんなァ。わたくし達だけ仲間外れなんて、悲しいじゃないですかァ?」


 和傘を肩に掛け、ウソ泣きを演じているのはオトヒメ。翁は祓詞はらいことばを止め、オトヒメに向かい話す。


「他の姫さま達はどうされたのですか?」

「亀のごとき遅さで、もうやって来ると思いますよォ?」


 オトヒメは和傘を畳みつつ、翁に向かって返答した。オトヒメは涙を拭う仕草で話す。


「ううゥ。お姉さま、わたくし達を除けのけものにして・・・。家族・姉妹じゃあ、ありませんかァ?シクシク」

「どうせウソ泣きだろ。其方そなたの伝家の宝刀。今まで自分以外の者に罪を擦り付ける為に散々やってきたのを見ている。騙されると思ったか?それと他の妹たちも来てるって――」

「そんなァ、そんな小賢しい事、わたくしがする訳ないじゃないですかァ?」


 ツキヒメが最後まで話すのを許さずオトヒメが割って入った。オトヒメの瞳からは涙が零れていた。ツキヒメは言いたい事を言えずに歯ぎしりをし、小さく舌打ちをした。


「お姉さま方、ごきげんよう。翁も。あたしも混ぜて下さらない?」

「チッ。コトヒメ・・・」

「まあ。お姉さま、舌打ちなんて下品ですよ。さま」


 姫君と呼ぶなか、何か含みがあるように聞こえツキヒメは更に不機嫌になる。コツコツと靴音を鳴らしてオトヒメの横に並ぶコトヒメ。ツキヒメは二人を睨め付け話す。


「もう良いよ。どうせ、他の妹たち来てるって話だろ?さっさと呼んで来いよ」

「まあァ。お姉さまったら、せっかちですよォ。焦らずとも来ますからァ」

「姫君さまと呼んだ方がよろしくてよ、オトヒメ姉さま。姫君さまは短気なのお忘れですか?」


 オトヒメとコトヒメは顔を見合わせクスクスと笑うのだった。それを見たツキヒメはイライラが止まらない。眉間にシワを寄せていた。

 トントンパ、トントンパ、と足音が聞こえてくる。


「アチャぁ。遅刻かな?ですかなー?オトヒメとコトヒメしか居ないセーフかな!ですかな!」

「「遅刻です(わ)よ(ォ)」」


「オリヒメ・・・」


 オトヒメとコトヒメが二人同時に話した。不思議な足音を鳴らしやって来たのはオリヒメと呼ばれる女性。不思議な足音の正体はケンケンパをしながらオリヒメは歩くのだった。


「久しぶりかな?ですかなー?ツキヒメ姉さま!元気そうかな!ですかな!」

「その歩き方と話し方イラつくから辞めろ」

「アぁん、ツキヒメ姉さまがイジメるかな!ですかな~」


 オリヒメがツキヒメに言い返されるとオトヒメ・コトヒメの後ろに隠れた。オトヒメ・コトヒメは二人ともオリヒメを庇うように合わせて。


「「乱暴なさま(ァ)」」


 一方、今にも殴りかかりそうなツキヒメは翁に羽交い絞めにされ暴れていた。オトヒメはツキヒメに向かって話す。


「あらァあらァ、まァまァ。翁に止められています、お姉さまも可愛いですわァ」


 ツキヒメを煽るようにオトヒメは口元を隠しクスクスと笑っている。それにつられコトヒメ・オリヒメも笑っている。


「もう、置いていかないで欲しいのです。足が痛いです、弁償してください。そして何やら楽しそうなのです。混ぜてください」

「じれったく登場するな、まとめて全員で出てこい」


 もう一人ずつ出てくるのがもどかしくなってきたツキヒメ。翁に何故か関節技を決められて滑稽な姿になっている。


「キヨヒメ、あなたが遅いのです。日々運動しなさい」

「面倒だから嫌なのです。無駄な時間を費やすのを推奨するなら、その時間を弁償してください」


「ゴチャゴチャうるせーー!さっさと残りの妹を連れてこい!はっ倒すぞ」


 禁地は山頂に近いためツキヒメの怒号はこだましていく。はっ倒すぞ、はっ倒すぞ、はっ倒すぞ・・・。場は静かになりカラスの鳴き声がその後にこだまするのだった。


「へっくち、ですかな」


 空気を読まないオリヒメはくしゃみをした。


「「なーんかスっごい、声聞こえたんだけど。ツキヒメ姉サまの声だった気がスるんだよね。どーかシたの?」」


 二人の女性が同時に話し手を繋ぎ立っている。その二人は対称的で真っ白な髪と紅い髪をしていた。


「遅いじゃねーか。ユキヒメ、ベニヒメ。お漏らしでもして遅れたのか?」

「「ソーんな昔の話スるなんて、お姉サまも年寄りになってババアになったのでスか?」」

「殴るぞ、ガキ」


 ユキヒメ・オリヒメは手を繋ぎ歩いてくる。今すぐにでも皆殺しにしそうなツキヒメを翁は抱きしめ静止しているつもりだが、さり気なく胸を揉んでいる。大胆なセクハラである。それよりも頭に血が上っているため殺意に塗れ気づいていない。


「お姉さま、自分一人で姫のつもりで散々わたしたちを虐げてきましたね。」


 新たに登場してきた女性が語る。木漏れ日から照らされたその女性は可憐、艶やか、見目よい、佳麗とも筆舌に尽くしがたいほど美しかった。


「クロヒメ・・・」


「ツキヒメ、哀れなツキヒメ。神様は味方してくれなかったのね。ツキヒメの顔、モノノケたちをも恐るるに足りない程に酷い顔になってる」

「ボコボコにして整形してやろうか?もっと美しくしてやるよ、出血大サービスで」


 ツキヒメは翁に捕まった状態でクロヒメに吠える。翁は下半身をツキヒメに擦りつけている、どさくさに紛れて。このジジイはどこまでやるのか。


「オイ。勿体付けてないでハシヒメも呼べよ。」


 全員で九人の姫。ツキヒメ・オトヒメ・コトヒメ・オリヒメ・キヨヒメ・ユキヒメ・ベニヒメ・クロヒメが既に集まっている、残りは一人だけだ。


「ハシヒメは死んだ。禁忌を犯したの。」


 クロヒメは冷酷な目つきでツキヒメを見つめるのだった。

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