新姫君 / ritual

「貴女さまの妹たちを殺せば先代の姫君を超える力を扱えるようになります。先代は自分の力を切り離す予定だった一人一人の姫に。しかし、貴女さまの身体には“姫”の力が完全に継承されてしまったのです。妹たちは微かな絞りカスの力が扱えるに過ぎない。が、絞りカスとは言え姫の力だ、それなりに大きな力。それを集めたら・・・後は分かりますね?」


 新たな姫君となるツキヒメ。姫君を正式に世襲するために行われる泰山府君祭たいざんふくんさいの前日の話。ツキヒメと物騒な事を語るおきながいた。翁が語るとツキヒメは怪訝そうな顔をして。


「なんだソレは。世迷言ではないだろうな?そんな胡散臭い話、誰が信じると思う?」

「滅相もない。私が嘘、偽りを姫君に話すとお思いですか?いつだって清廉潔白ですよ」


 ツキヒメが言い返すと即反論してきた翁。翁は先代からも助言者として信用されてきた。皆にも翁の的確な助言には感服しており常日頃から敬られてきた為、翁の言葉を疑う者はいないかもしれない。しかし、内容が穏やかではないのは確か。


「で、ワタシが妹たちを殺して強大な力を手に入れられると?」

「左様でございます」


 翁の表情はピクリとも動かない。ツキヒメが翁を真っ直ぐ目を見てハッキリと言った。


「論外だな」

「左様でございますか」


「どの世界に妹たちを殺して力を得たいと思うのか?其方そなたの考えている事はサッパリ分からん」

「左様でございますか」


 ツキヒメが助言を突っ撥ねると翁は笑みを浮かべて「無礼を申し訳ございません」と一礼した。ツキヒメがその笑みを見ると不快に感じ、翁を睨めつけると。


「では、明日の泰山府君祭の準備がありますのでこれにて」

「ああ。下がれ」


 床に手を付き頭を下げた翁はツキヒメの部屋を後にした。翁が先ほど笑みを浮かべていたのを思い出すと不気味で、怪奇的で、異様だった。その顔が目に焼き付き離してくれない、背筋が凍り鳥肌が立つのだった。


―――――――――


 翌日になり泰山府君祭が執り行われようとしていた。ツキヒメは白装束を纏い儀式を粛々と行おうとしていた。神聖な禁地にて。翁は祓串はらいぐしをツキヒメの頭上で振り、ぶつぶつと祓詞はらいことばを唱えていた。


「掛けまくも畏き、伊邪那岐大神いざなぎのおおかみ・・・」


 ツキヒメは正座を保ち頭を垂れている状態が続く。翁は祓串を振り続け祓詞が続く。正直、ツキヒメは既に飽き飽きしていた。


「まだ続くのか?翁?」


 我慢できないツキヒメは翁に向かい話かけるも、翁は祓詞に集中しツキヒメの言葉は耳に届かない。


「おい、翁。聞いてるのか?クソジジイ、耳ついてないのか?」


 ツキヒメが暴言を吐いたところで祓串で頭を殴られる。頭を抱えて痛みを堪えているツキヒメ。ツキヒメの逆鱗に触れてしまったそのとき。


「あらァ、お姉さま。もう儀式が始まっているのですかァ?」


 禁地である聖域にツキヒメと翁以外は立ち入ることが出来ないはずの場所に、和傘をクルクルと回し儀式を眺める女性がいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る