プリンセスストーリー~姫(妹)を皆殺しにして天下統一~

@ikurumi_kurumi

姫君 / born

 遥か、遠い昔々。モノノケたちが蔓延はびこり人々は呪われ、病を患い死屍累々と化していた。モノノケの王、山本五郎左衛門は眷属を各地で暴れさせ世を混乱へと陥れた。山本五郎左衛門は国の中心地に異界の扉ヴォイドゲートを築き、此の世と異界を繋げてしまったのだ。


「将軍様、お止めください。モノノケの王の強さは規格外です。どうか、どうか。」


 派手な装飾にドギツイ色の布で縫われた着物を身に纏っている将軍と呼ばれる男。その後を追い駆け回している家臣と思われる男が一人。将軍と呼ばれる男は甲冑に着替え始め、家臣の言うことには聞く耳を持たない様子だったが、家臣が犬の様に喚くものだから将軍の反感を買ってしまった。


「ふむ。お主は吾輩が山本五郎左衛門に負けると言いたいのか?」

「いえ、そういう――」


 将軍は携えた刀を抜き、家臣の喉元へと突き立てた。喉元に迫った刃に目を見開き固まってしまった。額からは冷や汗がダラダラと吹き出し、目線のみで将軍を見据えることしか出来ずにいた。


「吾輩が退いたら誰がアレを止めよう?止める者など吾輩しかおらぬ」

「ハッ。左様でございます。」


 家臣は目を伏せ床を見つめることしか出来なかった。将軍に刃を向けられたまま意を決してこう話す。


「しかし――」


 家臣が言葉を発した瞬間に首が飛び辺りに血だまり、返り血に染まる甲冑。将軍は布を手にし、刃についた血を拭った。ただの肉の塊になった家臣を見下し、将軍は一言。


「吾輩が行くしかないのだ」


 この日でこの世はモノノケに支配されることになった。将軍がどうなったかは語る必要もない。

 モノノケに呪われた者や異界から漏れ出した瘴気で病を患う者。各地に死体の山が積まれ、終末の世の訪れかと思っていた人民たち。絶望を彷徨うしかないのかと思っていた。


「瞳の光を失わないで下さい。モノノケに心まで売ったら終わりです」

「あァ、瀬織津姫せおりつひめさま。お美しや、看取みとって下さるのですか」


 空から一筋の光が降りてくるように見え、一人の女性が立っていた。地を這う人々の前に現れ手を差し伸べ一瞬の発光が起こると次々と病の症状が消えていくのを感じた。


「長い間、よく耐えましたね。混沌とした世、其方そなたの命を諦めないで下さい」

「瀬織津姫さま、今何を・・・?」


 瀬織津姫と呼ばれる女性は忽然と姿を消していた。すると空を覆っていた暗黒の雲は晴れていき、一面は青空へと移り替わるのだった。暗黒の雲が晴れていくことは少なからず異界の扉は閉じられ瘴気の蔓延は食い止められたことになる。


「空が、はァああ、青空がまた拝めることになるとは。瀬織津姫さま、貴女さまが成し遂げたのですか」

「いつまでも其方たちの事、見守っていますからね」


 その者は瀬織津姫に囁かれたような気がした。この日を境にモノノケの王、山本五郎左衛門ならびに各地を治めていたモノノケたちは姿を消していた。平和をもたらした瀬織津姫は「姫君ひめぎみ」と崇められることになった。

 姫君は各地を復興し統治した。民たちは自分たちで生活できるようになり、残党のモノノケ達とも対峙できる程に成長していった。かつて文明も衰退していったが、対抗できる兵器など開発され文明さえも進化していった。


「しばらくこの地を空けます。自分たちで生きていけますね?」


 姫君はこの言葉を残し姿を消した。各地で混乱が起きたが姫君の侍従じじゅうたちは各地をおもむき、それを抑えた。


「姫君さまは必ず戻ってきます。動揺せぬように。皆で待ちましょう」


 侍従が各地で無秩序な行動など起こさないように監視し続けた数日後、姫君は九人の女の子を連れて帰ってきた。九人の子たちも姫と扱われるようになり、姫たちもそれぞれ力を開花させていった。しかし、八人の姫たちは不完全であり欠陥があった。

 一人の姫のみ完全なる姫の力を行使でき、後継者だと皆が思っていた矢先に姫君は息を引き取ったのだった。

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