第21話 迷い家の記憶③
あれから、救急車で搬送された健くんはそのまま集中治療室に向かったが、外傷もなく特に体には何の問題も無いという事で、一般病棟に移された。
なぜか、健くんは目を覚ます様子は無く死んだようにずっと眠り続けている。私は病室から出ておばさんと連絡を取ると、
この病院で見てもらっても、健くんの意識が回復しないように思えるのは、
「ねぇ。あの人助かりそうなの?」
病室に戻ろうとすると、私は後ろから真砂さんと思われる女の子に話しかけられた。振り返るとそこには、コスプレ衣装ではなく私服で髪も下ろしている彼女が立っていた。
現場での雰囲気とは異なっているので、一瞬誰だかわからなかったが紛れもなく彼女達。
「ちょっと、縁起悪いこと言わないで。それより貴方も少しは霊が見えるんなら、もっと早く皆に警告して欲しかったよ」
思わず真砂さんを責めるような口調になってしまって、反省した。
彼女が祓えもしないのに霊能力者として、周りを巻き込んでしまうような、危険な事をしているのが許せなかったのもあるけれど、健くんの相棒なんて言いながら、何もできなかった自分に一番腹が立っていて、八つ当たりのような事を口にしてしまった。
「…………悪かったわね。あんな危険な悪霊なんて初めてだったから、どうしていいか分からなかったっていうか。琉花の守護霊も応答なしだったし」
「――――私も言い過ぎたよ、ごめん。それでさっき真砂さんが言ってた、絵画の中に健くんがいるって話だけど」
彼女から詳しく話しを聞こうとすると、病室から間宮先生が出てきた。少し疲れた顔をしているのは気のせいじゃないと思う。
私と真砂さんの会話を聞いていたのか、間宮さんが口を挟んできた。
「珈琲を買おうかと思ってたんだけど、君たちの話しが聞こえてね。あの絵画の中に雨宮くんがいるって、一体どういう事なんだい?」
そう言えば、間宮先生は先に部屋から出てしまったのであの絵画の状況を全く知らないのだ。
もっとも、真砂さんと私が健くんの姿を確認した直後に、まるで絵画の中で生きているように洋館へと吸い込まれてしまって夢で見たのだと言われてしまえば否定もできないのだけれど。
健くんが洋館に消えた直後、遠山千鶴子が日傘をさしてこちらを見ている姿が火で炙られたように浮き上がってきた。
その表情は、ゾッとする程に艶やかで満足している様子に思え、胸騒ぎがして今でも鳥肌がたち恐怖を感じる。
「あの、雨宮って人……
「幽体離脱か……、しかし長時間そう言った体験をする事は通常ならあり得ない。それはもう
――――
霊感の強い人の中には、自ら幽体離脱をする人もいるらしい。
「間宮先生、幽体離脱が長く続けばどうなるんですか? どうして健くんは目を覚まさないの?」
「うん……僕の研究では、幽体離脱を経験した人の多くが、このまま体に帰れなくなるのでは、と言う恐怖に狩られ必死に戻ろうとする。
天野くん、この世で体を持たない魂たちが何を考えているかわかるかい?」
間宮先生が、まるで大学の講義のように私に質問をする。すでに魂と体が細い糸で繋がっている状態がいかに危険なのかを知っていたけど、これ以上に最悪な事なんて本当にあるんだろうかと私は思った。
「もしかして、健くんの体が狙われちゃう…………んですか?」
「僕の研究によると、浮遊霊や地縛霊は強い未練を持ったままこの世に留まっている。もちろん死んでから行き場所がわからない霊もいるんだろうが、何かしら強い念がある者たちだ。
魂が不在の体は、乗っ取るには最高の存在のようだよ」
私は血の気が引く思いで間宮先生を見つめた。
健くんの事だから、あの洋館で脱出する手がかりを探しているかも知れないけれど、相棒としてじっとしている訳にはいかない。こちらから助ける方法は探さなくてはいけないという、
「先生、なんとか……なんとかしなくちゃ! 私、嫌な予感がするんです。健くんを遠山邸から救い出さないと……!」
「そうだね、このままじゃ彼は危ない。雨宮くんを目覚めさせる方法を探さなければ……、それに、まだ克明が生きてるなら、彼を救えるのは雨宮くんしかいない。遠山家の事を調べよう」
私と先生のやり取りを、じっと見つめていた真砂さんは、ボソリと呟いた。
「琉花も手伝ってあげても良いよ。べ、別に琉花にはそんな義理なんて無いけど。関係ない事もないから」
真砂さんはなぜか頬を赤らめ、私達に協力を申し出てくれた。
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