第6話 足跡を辿って①
関東に引っ越した、それだけが唯一の手掛かりだった。母さんやばぁちゃんに聞いてもあの事件以来、有村家の祖父母は島の人達と交流をすることを避けていたようだ。
時々、祖父が本土へと出向いては骨董品などを
「克明さんや、香織ちゃんのお友達なら何か知ってるかな?」
「どうだろう。香織ちゃんの友達は難しいかも知れないけど、克明さんの友人はいるかも知れないな」
――――しかし、香織ちゃんよりも接点が少なかった克明さんの交友関係を割り出すのは、幾ら狭い島だからと言っても無理がある。それは提案を出した梨子も同じ考えに行き着いたようだった。突然、背後からにゅっと顔を出したばぁちゃんは指を指した。
『ほれ、あんたらの前にはパソコンがあるやろ。若いんだから携帯電話でもパソコンでも何か情報を検索できるんじゃないのかい?』
「ああ、そうか……。検索に引っ掛かるかわからないけど、克明さんを探してみよう」
「さすが、健くん! 克明さんの年代ならもしかしたら、フェイスブックやってるかも知れないね」
いや、今のはばぁちゃんが……、と言い掛けて僕は言葉を飲み込む。正直に言うと危険な命がけの事件に首を突っ込むのだから、ちょっとくらい、なんていう姑息な考えが浮かんでしまった。ともかく僕はPCを起動した。
無難に『有村克明』と検索すると、姓名診断のサイトや似た名前の芸能人などがヒットする。僕は登録したまま、投稿などはせずに見る専用にしていたフェイスブックを立ち上げた。暫く見ていなかったせいか、仕事の同僚や先輩達の更新通知が溜まっていた。
「健くん、フェイスブックやってたんだ。後で申請していい?」
「構わないけど、僕はほとんど更新しないよ。ツイッターもフェイスブックもSNSは誘われただけで……でも、梨子が繋がってくれるのは嬉しい」
僕は思わず顔がニヤケそうになったが、ばぁちゃんの視線が痛いので、真面目に情報収集する事にした。名前を入れて検索すると、何人かの同姓同名のアイコンが出てくる。写真を乗せていない、ただ登録しただけであろうアカウントや、小さく家族写真をアイコンにしているアカウント、芸能人のファンサークル等が出てきた。
「同姓同名の人、意外と多いね。でも、私達克明さんの顔を知らないのに探せるかな?」
「そうだね……、なら、こうしよう。出身地を記入する項目もあるから、この島の事もワードに入れてみる」
僕は名字の後に、この島の名前を入れてみた。するとその数はぐっと絞られた。画面をスクロールしていると、不意にばぁちゃんが指を指した。
そのアイコンはどこか旅行先の海で撮った写真をバックに男女のカップルが顔を寄せ合っていた。年代は三十代だろうか、爽やかな印象で僕の目から見ても、端正な顔立ちの男性に見える。
『健、この子だよ。随分と男前になったけど、ばぁちゃんよう覚えとるわ。前川ただしの若い頃にそっくりだったもの』
「ばぁちゃんが言うには、この人が香織ちゃんのお兄さんだっていうんだ」
前川ただし、と言うのはばぁちゃんが一時期追っかけをしていた演歌歌手らしい。梨子も興味深く乗り出してきた。僕はアイコンをクリックする。非公開にしていなかったようで、見ず知らずの僕でも克明さんの投稿内容を見る事が出来た。
都内のK市で高校教師をしているようで、婚約者の
「えっ、ちょっと……克明さんと一緒に映っているこの人、
「あっ、え? 梨子の大学の先生なの? 克明さんと友達だったのか……」
急に梨子が驚いたように目を見開いて、スクロールしていた手を止めさせた。その記事には親しげな様子で克明さんと、間宮と呼ばれた男が写っていた。
三十代後半と聞いていたが、若々しく顎髭のお洒落な彫りの深い顔立ちだ。この顔立ちは絶対、女子学生がほっとけないであろう濃すぎず、薄すぎずという俳優顔をしている。
先日の事件も間宮先生に報告したと梨子から聞き、親しくなったようだ。
日本のオカルトに精通し本も出していると聞いていたのだが、イケメン独身の教授の圧倒的な顔面偏差値の差を、見せつけられたような気がして勝手に落ち込んでしまった。
「やった、健くん! 身近な所に手掛かり発見だね。克明さんの事を間宮先生に聞こうよ。何か知ってるかも。先生もね、健くんにも逢いたがっていたから」
「へ? なんで僕に逢いたがるんだ」
「健くんの霊感に興味があるんだよ。きっと喜んで協力してくれるねっ」
「なるほど。民俗学の他にオカルトも好きなんだもんな。とりあえず間宮さんに話を聞こうか。それと、早瀬芽実さんにも話が聞けそうなら聞こう」
タグ付けされている、早瀬芽実のアカウントに飛ぶと、一週間前に彼女の更新はに止まっていた。記事の内容はこうだ。
『克明と別れました。まだ心の整理が付きません。しばらくフェイスブックには来られないかも。ふられたけど、本当に彼が心配。納得いかないことばかりです。少しリフレッシュします』
彼女の友達の欄には間宮さんがいた。彼がいれば、早瀬さんの話も聞けそうだ。僕たちは急いで夜行バスをキャンセルし、明日の朝、新幹線で東京に帰ることにした。
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