第2話 夏の終わりの依頼人①
大学が夏休みに入り、
ばぁちゃんが他界してから、母さんが神社の切り盛りを一人でやっていたので、梨子が手伝ってくれるという話は大歓迎だったようだ。
どうやら、来年のお正月にも巫女としての働くと言う約束までしているらしい。
ちなみに言うと、僕も神主の資格は無いが一応、掃除などは手伝っている。梨子はもともと飲み込みが早く、神社のおつとめも直ぐに慣れていった。実は高校でも、彼女は成績優秀だったので時々、分からない所があれば試験勉強を見て貰っていた。
成績優秀、スポーツ万能、それを決して鼻にかけるような子でも無く、明るくて同性の友達も多かった。大人になって、中性的で小麦色の肌をもっていた健康的な少女は、浴衣の似合う大人の女性になっていた。
『
「えっ、本当に!?」
突然、隣にいるばぁちゃんのにやついた声で僕は軽い妄想の世界から現実に戻ってきた。今日は島の夏祭りの日だ。お盆が過ぎ梨子を残して関東に帰ったが、恒例の夏祭りに参加するために、八月も終わりに差し掛かかった、金土日の連休を利用して田舎に帰ってきた。
ちなみに僕の神社の祭りは春先なので、今夜はフリー。今夜の夏祭りの誘いは、島に着くまでの半日文面を考え、死ぬ程勇気を出してメッセージを送った。
『ここは、シャキッとな。ばぁちゃんはちょっとお邪魔にならんようにしとくわ』
ばぁちゃんは、ニヤニヤ笑いながら巫女服で口元を隠すと僕の背中を思い切り叩いて、消えていった。ばぁちゃんが僕の背後から消える時は、一体何をしているのか不思議だったけど、取り敢えず今はそんな事はどうでもいい。
僕は、心の中で気合をいれると、梨子に歩み寄み寄り話しかけた。
「梨子、ごめん。待たせた?」
「あ、健くん。私も今来たところだよ。浴衣姿の健くんみるの久しぶりだね」
梨子は振り返るとにっこりと微笑んだ。ふわりとしたショートボブの髪から見える白いうなじに僕はドキドキしつつ、僕は隣に並んだ。そう言えば高校の時でも一緒に祭りに行った事は無いな、と思いつつ僕は緊張しつつ促した。
僕の中では、夏祭りデートという事になっているので十分に楽しみたい。
「花火が上がるまで、まだ時間があるから屋台見ようか?」
「うん、このお祭りで一番のメインは屋台巡りだもんね。いつも楽しみなの」
この祭りのメインはずらっと立ち並ぶ屋台だ。この地方では有名で、フェリーに乗って観光がてらに来る人達もいるくらいだ。町内会で渡される手作りの屋台マップを見ながら、僕達は話した。焼きそば、どて焼き、唐揚げ、やき、フランクフルトに、ベビーカステラ、焼きとうもろこし、綿菓子、りんご飴。それ以外にもラインナップは豊富だ。
射的や、輪投げ、金魚すくいなどのゲームもある。
「梨子、何がいい?」
「私、やきとり食べたいなぁ。あとりんご飴も子供の頃から好きなの。健くんは何食べたい?」
「うーん、僕もやきとり食べようかな。焼きそばも食べたいし……半分たべる?」
じゃあ、りんご飴も半分こしようか、と梨子に微笑まれ僕はもうかなり舞い上がってしまった。いや、彼女にとっては何でも無い事だろうが素直に嬉しい。この夏の陰惨な事件の疲れを癒やすには十分な程だ。
とりあえず梨子の分と僕の分のやきとりを買い、焼きそばを買うと梨子の待つ所へと向かおうとした。
不意に視線をあげると人混みに紛れて、冬のセーラー服を着た女の子がこちらを見ていた。夜になっても、まだ残暑が続く八月の終わりには長袖は不自然な格好だった。
中学生くらいだろうか、同じような歳の子達は浴衣を着たり、夏らしい格好をしていて、誰も学生服なんて着ていない。明らかに周りの人々とは色が違い全体的にグレーで暗い。あの女の子が生きている人間じゃ無い事は直ぐにわかった。
普段は、霊を見ないように霊視する能力を遮断しているのだが、霊力の強い悪霊や、強い心残りを持って死んだ霊達はそのルールを破って僕に干渉してくる。基本的に、そう言う霊は相手をせず見えないふりをしてやり過ごすのだが、なぜかこちらを見つめる少女に、懐かしさを覚えて、じっと凝視してしまった。
少女は何も言わず、
その薄暗い小さな森の小道を通ると、近道で住宅を抜けられる。だが、僕は彼女を行かせてはいけないような気がして後ろから後をつけようとした。
『そっちに行ったらあかんよ。戻りなさい健』
急にばぁちゃんの静かな声で制され、僕はハッと意識を取り戻した。魔物や悪霊に近付いた時に聞く声音では無く、叱るでも怒るでもないただ静かなものだった。
「ばぁちゃん……なんで」
「健くん、どうしたの??」
森を見つめていた僕を心配そうにして、梨子が話しかけてきた。直ぐに背後から気配を消したばぁちゃんに首を捻りながら、僕は気を取り直して梨子の方を向く。
「あー、ごめんごめん。猫が居たからちょっと気になったんだ。さ、あっちで食べよう」
「えっ、そうなの? 見たかったなぁ。お腹空いたねあっちの広場のベンチで食べようよ」
僕は、楽しい夏祭り気分をぶち壊したくなくて梨子に嘘をついた。霊の事を理解し始めたとはいえ、こんな楽しい祭りの日に気味の悪い話は聞きたくないだろう。
僕達は気を取り直して、談笑しながら二人でベンチに向かった。
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