第16話 囚われた魂①
「やっぱり、真砂さんはテレビに出るだけはあるわね! お父さん、これでこの家は一生安泰よ。克明だって直ぐに元気に出てくるわね。あの子は絶対に私を見捨てないもの! そうよ!」
おばさんは、おおげさ過ぎるくらいに喜び手を叩いた。まるで現実逃避するかのように琉花さんの霊能力に頼りきっている。その口調からは、克明さんへの依存心が感じられ、昨日の間宮さんの言葉が頭に過ぎった。
――――絶対に私を見捨てないもの!
もしかして、間宮さんの言っていた噂の通り克明さんと、実の兄妹以上に仲の良かった義理の娘を疎ましく思って殺害したのだろうか。
だが、克明さんはそれに気付いてしまった。
しかし、克明さんは唯一の肉親である母親を警察に付き出せずにいたとか……?
何の証拠も無いし、これは完全に僕の勝手な妄想にしか過ぎない。余計なことを考えないようにしようと僕は頭を振った。
琉花さん達は、さっそく機材を担ぎあげると次の現場に向かうという。そこで、克明さんのご両親の許可を取り撮影の邪魔をしないと言う条件で彼らに同行する事を許された。とにかく、現場に行かなければ何も始まらない。
「私達も、マンションに行かせて貰えるみたいで良かったね、健くん。それにしても私ちょっと吃驚しちゃったな。真砂琉花って、本当に霊感があるんだね。コスプレ写真集の宣伝やドラマの脇役の番宣の時に良く見るから、てっきりそう言う売り方してる偽物で、普通の女の子かと思ってた」
す、鋭い……。
梨子の厳しい突っ込みに僕は愛想笑いを浮かべた。僕は芸能界にそれほど興味がないからわからないけれど、彼女の能力を知れば、事務所の方針もあるのかなとは思う。
だが、今回ばかりはそれが通じるような相手じゃない事は芽実さんの事で良くわかった。
僕は梨子と、間宮さんに少し待ってもらって最後尾を歩いていた琉花さんに駆け寄り声をかけた。
「あの、真砂さん」
「な、何よ。サインなら今は忙しいから無理。仕事を終わらせたらしてあげても良いけど……」
「いや、そうじゃないよ。君は視えてるし霊感はあるみたいだけど、祓えないだろ。こんな危険な事をしてたら、いつか大変な事になる。
それに、今回の悪霊は……魔物かも知れないけど、とても危険なんだ。だから君は気分が悪くなったとか、何でも理由はいいからこの件からは手を引くんだ」
僕は小声で彼女に言った。琉花さんは僕が本当に視えてると知って目を見開いた。言い方は悪いが、祓えるという嘘のパフォーマンスで芸能界にいる。
それを、見破られた恥ずかしさなのか、怒りなのか分からないが彼女は頬を染めて、震えながら僕を見てる。
「あ、あんた、本当に視えてる仲間系の人なの? これで今まで上手くいってきてるんだから邪魔しないでよねっっ」
「いや、あの、僕は邪魔するとかじゃなくて、君の事を心配して」
「し、心配なんてしなくていいから!!」
何故か琉花さんは真っ赤になると、僕を振り切ってマネージャーの待つロケバスに乗ってしまった。
一体、なんなんだあの子は……。
残された僕の背後から、ばぁちゃんが声をかける。
『今まであの子が無事におれたんは、後ろについてる守護霊が強かったからだよ。拝み屋が視えとるし、家系にそういう人が本当にいて守護霊として、あの子には危害が加えられないように守ってたみたいだねぇ。
はー、それやったら別に健が助けんでも良かったな。まぁいいけど。
だけど今回ばかりはあんたの言うとおり、危険だよ。撮影なんか知らんわ、ぶったぎって浄霊したる!』
やる気満々のばぁちゃんに押されつつ、僕は間宮さんの車の後部座席に乗り込んだ。先に乗っていた梨子が、僕にふと話しかける。
「健くん、何話してたの?」
「ああ、うん、あの子視えてる事は視えてるみたいだけど、危なっかしいからね」
「……ふーん」
梨子は素っ気なく返事をするとそっぽを向いて、動き出す車の窓から景色を眺めていた。
(な、なんだろう……恐い。なんか、梨子の機嫌が悪いような気がするんだけど、僕の気のせいかな……?)
僕が車内で縮こまっていると、ばぁちゃんが何故か意味もなくニヤニヤしていた。
もう、こう言うニヤついた表情をしているばぁちゃんに声をかけると最後、めちゃくちゃ面倒な事になるので僕は無視した。
「雨宮くんは、紳士だねぇ。こんな時に不謹慎だけど僕は琉花ちゃんのサイン欲しいなぁ。あわよくば、琉花ちゃんの家系のお話とか聞きたいよ。イタコやいざなぎ流についても色々と研究してるからね」
「先生、はしゃぎすぎて事故起こさないでね」
間宮さんはバックミラー越しに
オカルト好きには興味深いのだろう。
克明さんの住んでいるマンションは、ここから車で三十分程行ったところにあるそうで暫くして、マンションの前まで着くと梨子と二人でマンションを見上げた。克明さんの部屋が、どの階のどの部屋なのか、間宮さんに詳しく聞かなくてもそこがどこなのか理解した。
一室だけ、周辺よりもどんよりとしていて薄暗い場所がある。太陽の光がそこだけあたっていないかのように見えて、遠目で見るたけでも居心地が悪く不快だ。
窓は遮光カーテンが引かれて、中の様子はわからないが、それでも湯気のように赤いオーラが見え隠れしていた。
僕のように、霊感が強くない梨子もこのマンションには何かを感じとっているようで、緊張している様子だった。
「――――凄く、嫌な感じだ。梨子、大丈夫かい?」
「う、うん、前回よりはマシな環境だよ。それに私は健くんの相棒なんだから、気を使わないで。一緒に行く」
頼もしい梨子に、僕は頬を染めながら間宮さんを引き連れてマンションへと入った。
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