第38話 事件の後で
あれから、克明さんの実家は家宅捜索され書斎に隠されていた鍵からトランクルームが割り出された。
そこから、被害者と思われる歯が見つかり、セーラー服や女子中学生の盗撮写真、それから被害者に関する、新聞の切り抜きなどが見つかり、義父は『女子中学生めった刺し連続殺人事件』の容疑者として捕まった。犯人は容疑を
僕と梨子は、都内の墓地に来ていた。
この場所には島から移された香織ちゃんのお墓がある。ちょうど事件が解決しお彼岸だった事もあって僕は、梨子を墓参りに誘った。
もちろん、彼女は快く返事をしてくれ花束を持って墓石までくると、そこには事件以来、しばらく逢っていなかったスーツ姿の克明さんが花を持って立ちすくんでいた。
僕達の気配に気が付いて振り向くと、驚いたように目を見開く。あの時に比べてずいぶんと顔色は良くなったように思えるが、やはり精神的な疲れているように見えた。
「――――雨宮くん、どうしてここに?」
「僕達、香織ちゃんの墓参りにきたんです。随分と会いにくるのが遅くなってしまったから」
僕は、あの当時子供で彼女のこともトラウマになって完全に存在を忘れてしまっていた。随分と遅くなったけど、ようやく彼女に会いに来る事が出来たのだ。
克明さんは、心なしか嬉しそうに微笑んだ。
「――――そうか、きっと香織も喜んでるよ、何時でも会いに来てあげて欲しい。実を言うと、俺はあの時から一度も墓参りに行かなかったんだ」
「え、どうしてですか?」
梨子が不思議そうに問い掛けると、克明さんは少し目を細めて香織ちゃんのお墓を振り返った。
「あの日からずっと後悔してた。犯人も見つけられず、俺は香織に申し訳なくて、どんな顔してここに立てば良いのか分からなかったんだ。だけどこれからは、何時でも香織に会いにいくよ」
僕は、本当に克明さんが
「実はね、俺は教師を辞めたんだ。マスコミが職場に来るのもあるけど……、一回死んだと思って新たな道を歩こうかなとね。芽実も香織も応援してくれているといいな」
「きっと、克明さんなら上手く行きますよ。僕達も応援しています」
梨子と二人で微笑むと、克明さんは頭を下げて晴れやかな笑みを浮かべ僕達を追い越して歩いていった。
「克明さん、大切な人を沢山失って、本当に大丈夫かな……?」
「きっと大丈夫だよ、梨子。克明さんの今の守護霊は誰だと思う? 香織ちゃんと早瀬さんなんだ。彼の背後で見守っているんだよ」
天界に上がった二人は、克明さんの守護霊として彼の背後に居た。二人とも仲睦まじい様子で話をしていたので、新たな出発の門出を応援して守護してくれるだろうと思っている。
僕のLINEの着信音がして、ポケットから携帯を取出すと、同じように梨子も携帯を取り出した。
メッセージは琉花さんからだ。
何故か僕と梨子は強引にLINE交換させらてしまい、こうして時々僕ら宛にロケの様子や番組の合間に写真付きのメッセージが送られてくる。
「オカルトユニットで新曲出すらしいね。ちょっと楽しみ! あの事件に関わって以来、TVで取り上げられたから、真砂さんオカルト界隈以外でも売れてきてるよね」
「うん。あ、そう言えば……相談したい事があるって言ってたな。また今度聞いてみるよ」
「二人で? その時は、相棒の私も行くから!」
有村さんに依頼をされた事から、TVや週刊誌で報道され彼女は
そう言えば、僕に相談したい事があるそうだが、心霊関係でない事を祈る。
そしてなぜか、相棒として同席したいと言い出す梨子に驚きつつも嬉しく思って、ついニヤついてしまった。
――――僕らの関係はほんの少し、前進したはずだ。
『あんたら、本当にまどろっこしいねぇ。ところで、間宮先生に会いに行くんだろ』
ばぁちゃんの言葉に大事な用事を忘れる所だった。お墓参りをして手を合わせると梨子と共に病院に向かった。
頭を殴られたので、しばらく傷の手当てや精密検査などの検査入院して、
彼もとんでもない事に巻き込まれてしまった。
✤✤✤
随分と元気な様子で間宮先生はベッドに座っていた。
僕たちは差し入れをしつつ雑談する。
今回の出来事は彼にとっても興味深い出来事で良い経験が出来たと思っているようだ。
「克明も見舞いに来てくれたよ。そう言えば雨宮くんは、もう仕事に復帰してるのかい?」
「ああ、実は……神主の免許とる為に実家に帰ろうかなとか……。職場には、色々と迷惑掛けちゃいましたから。バイトしながらですけど」
「私も卒業したら、健くんの神社で働きます。両親も実家の近くで働いて欲しいそうなので」
間宮先生は、腕を組みながら笑顔で頷くと言った。
「僕も実家はもう無いんだけど、島に遊びに行こうかな。君たちにはこれからも研究に協力して欲しいからね。雨宮くんにも、僕の番号とLINE教えておくよ」
なんだか嫌な予感がしないでもないが、もうこの道を選択してしまったから仕方ない。
普通のサラリーマンをしていて、心霊事件に巻き込まれると、多方面に迷惑がかかると分かったので僕は腹をくくることにしたのだ。
まぁ、当分はフリーターだけど、梨子と一緒に将来同じ職場で働けると思ったら嬉しい。
僕たちは、病室を後にしようと立ち上がり個室の扉に向かうと、ばぁちゃんが背後を振り返り間宮さんをじっと見ている事に気付いた。
「――――どうしたの、ばぁちゃん?」
『いいや。早く出るよ』
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