第5話 お肉を食べよう
家に到着した俺は早速手に入れた肉を使って料理をすることにした。
勇者というのは便利なもので料理スキルまで持っている。
「勇者って何でも屋なのか?」
「ガウ?」
「いや、なんでもない、独り言だ」
……あぁ、神獣とはいえ誰かと会話をしながら生活できているだなんて、少し前では考えられない現実だな。
というか倒れてから今まで、まだ一日経っていないんだな。ものすごく濃密な数時間だな、マジで。
そんなことを考えながらも俺の両手は動き続けている。
シャドウウルフの肉をぶつ切りにして鍋で煮込みつつ、薄くスライスした肉には野草をまぶし味付けをして串に刺して直火で焼いていく。
ジュウゥゥという香ばしい音と匂いが鼻腔をくすぐると、唾液が口の中に広がる。
「ガウガウッ!」
「そうだな。神獣にも食べさせないと……そういえば、お前は何を食べるんだ?」
「ガガウッ!」
「生肉? 生のままでいいのか?」
「ガウッ!」
予定よりも多くの肉を手に入れることができたので神獣に与えることに問題はない。
ただし、その前にやっておくべきことを見つけてしまった。
「神獣、まずは綺麗にするぞ!」
「ガウッ!」
土まみれ、埃まみれだった神獣を見て、俺は木魔法で桶を作成してその中に水魔法で水を溜める。
そこに神獣を入れて洗ってみたのだが……おぉぅ……これは、ものすごく汚れていたようです。水が真っ黒になっちゃったよ。
洗いながら何度か水を入れ替えていると、ようやく水が汚れない位に綺麗になってくれたよ。
「……な、なんか、神獣を綺麗にするだけで、めっちゃ疲れたぞ」
「ガウッ! ガウガウッ!」
まあ、喜んでいるみたいだからいいか。
最後の仕上げで風魔法を当てて体毛を乾かしたのだが……おぉぅ、めっちゃモフモフじゃないか!
「ああぁぁぁぁっ! ……ヤバい、癒されるわぁ」
「ガウ?」
どうやら神獣は自分のモフモフな体毛に気づいていないようだ。なんてもったいない。
「……ガウガウッ!」
「おっと、ごめんごめん。ご飯だったな」
我に返った俺は空間庫から保存しておいた肉を取り出すと、大きめに作った木の皿に乗せて神獣の前に置く。
すると、神獣はかぶりついて一心不乱に食べ始めた。
「お前も空腹だったんだな。それとも、肉が食べたかったのか?」
「ガフッ! ……ガブフッ!」
「すまん、今は満足いくまで食べてくれ」
「ガフッ!」
返事をするのを止めた神獣はまたしても一心不乱に食べ始める。
その姿を見ていたら、俺も早く食べたくなってきたので鍋に残りの野草を加えると先にスライス肉を食べることにした。
「よし、それじゃあ――いただきまーす!」
スライス肉にかぶりついた俺は、あまりの美味しさに涙まで流してその味を噛みしめていた。
シャドウウルフの肉は硬くはずなのだが、薄くスライスしたことで硬さをそこまで感じることはなく、その代わりに肉の甘味が噛めば噛むほどに口の中で広がっていく。
さらにピリッと辛みのある野草で味付けをしたことで甘さと辛みが味覚を刺激して食欲がさらに湧いてくる。
「美味い……美味いぞ!」
「ガフッ! ガフッ!」
「おぉ、そうか! 神獣も美味いか!」
「ガフッ!」
俺と神獣は満足いくまで肉を食べ続け、最後にスープに口を付けたのだがこちらもまた美味かった。
肉の甘味がスープに溶け出し、さらに野草が旨みが溶け出したスープを吸っており、青みが残る野草でも問題なく食すことができる。
スープに関しては神獣にも出してみたのだが、こちらにも好評だったのかあっという間に飲み干してしまった。
「はああぁぁぁぁ……うん、大満足だ」
「ガウウゥゥゥゥ」
家具はまだ作っていないので切り株に腰掛けながらお腹をさすっていると、神獣が俺の膝に飛び乗ってくつろぎ始めた。
「……なあ、神獣」
「……」
「……神獣?」
「……ガァァ……クゥゥ……」
……寝てるし! ていうか、膝の上で寝るなよ、動けないじゃないか!
「……まあ、いっか」
家具作りは後に回すとして、俺はお腹も心も落ち着いたことで突然現れた勇者の職業について考えることにした。
勇者というのは唯一無二の職業であり、一度に二人現れるということはないと聞いている。
ならばどうして俺に勇者という職業が現れたのか、そこに対しての答えはおそらく持っている。
「やっぱり、殺されたんだろうなぁ」
そうとしか考えられない。
ただし、そこの謎が解けたとしてもやはりもう一つの謎に関しては全く予想も立てられない。
「勇者が死んだら次の勇者は新しく生まれる赤子に与えられるはず。それなのに、すでに生まれている俺に与えられた理由が分からないな。……あれ? そういえば、勇者が殺される光景の後に、別の光景も見えたような」
……うん……そうだ……思い出したぞ!
俺は確かに別の声を耳にして、別の光景を目にしている。
だが、あれはいったいなんだったのだろうか。勇者でもなければ、勇者を殺した相手でもない。
真っ白の空間の中に二人、何だか神々しい姿の二人が見えたはずなんだけど。
「どっかの国の王様とか? もしくは神様か? ……いやいや、まさかなぁ」
仮に王様ならどうしてラクスラインに悪戯とかしないだろう。というか国に対して悪戯とか、もっと質の悪い相手じゃないのか?
国に対して悪戯という何かをしでかせる相手となると……なんか、あり得ないけどやっぱり神様とかの線が怪しくなってくるんだよなぁ。
あり得ないことが起きている今、あり得ないことをあり得ないからと排除することの方があり得ない気がする。
「……まあ、俺には関係のないことだ」
もし本当に神様が俺に対して何かをしでかしたなら、それに対して俺がどうこうできるとも思えない。
それに登場人物は二人いたし、悪戯をした方のせいで俺に勇者の職業が与えられたとしても、俺が人族を救う為に戦わないといけないわけじゃないしな。
「この世界は、Nを与えられた者にはあまりに厳しすぎる。そんな世界を、俺が救う意味が分からないな」
元Nとしては、人族が滅ぼされようとも、その結果魔族が世界を支配しようとも関係ない。
俺は俺の平和を守ることができればそれで満足なのだ。
一度裏切られているのだから、それくらいの感情を持ったとしても罰は当たらないだろう。
「ふああぁぁぁぁ……ぅぅん、眠くなってきたな」
「……ガウン?」
「家の中に、行くか?」
「……ガウッ」
膝の上からゆっくりと下りてくれた神獣を伴い家に入ると、何もない床の上で横になりそのまま眠りについてしまった。
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