第2話 突然勇者になりました
さて、勇者になったのならまずはやるべきことがある。それは――
「食料の確保だ!」
空腹には誰であれ、どんな職業であれ勝てないのだ。
俺は索敵スキルを使って周囲に魔獣がいないかを確認したのだが、残念なことに近くに魔獣の姿を確認できなかった。
ならばと鑑定スキルをフル活用して食べられる野草を見つけ出そうと試みたのだが……うん、上手くいったぜ!
そのまま食べられる野草や、味付けに使える野草など、多種多様な野草を回収して空間庫へと入れていく。
この空間庫もスキルの一つで、簡単に言えば荷物をどっかから出し入れできるスキル、である。
荷物持ちが唯一重宝される場面としては、最初から空間庫スキルを持っているという点だ。
しかし、その容量は人によって異なり、俺の本来の容量は1メートル四方と最小だったはずなのだが、今では容量に限界がないようで無作為に入れても問題はない。
食糧なども時間の流れが停止するので腐る心配もなく、とても有用なスキルの一つなのだ。
「こんな便利なスキルを持ってる勇者って、マジで凄いんだな。それなのにどうして殺されたんだ?」
俺が見た光景の一つ。
推測なのだが、あれは寝込みを襲われた感じだった。声は男女だったし、イチャコラしているところで殺されたのかもしれない。
他にもまだスキルは大量にあり、全てを把握するには時間が掛かるだろう。
ということで、俺は食糧確保とお腹を満たすことを優先させたのだ。
「とりあえず火おこしは……ファイア」
魔法を使えるって……はぁぁ、なんて便利なんだ。
俺は土魔法で鍋を作り、その中に水魔法で水を注ぎ沸騰させると、手に入れた野草を加えてスープを作っていく。
出来上がるまでの時間を利用して木魔法では食器を作ると、その出来上がりに大満足してしまう。
「……なんか、これだけでも生活ができそうな勢いだな」
思い描く通りに食器も出来上がったので、売りに出したら一財産稼げそうな気がしないでもないが、正直なところ人里で生活を送るのは気が引けてしまう。
今は勇者だけど、どこかのタイミングで荷物持ちに戻ることもあるんじゃないのか? もしそうなったら、俺はまた追い出されるか、最悪の場合だと勇者を騙ったNだと捕らえられて殺されてしまうかもしれない。
そう考えると、しばらくは誰もいない場所でひっそりと暮らしていた方がいいように思えてきた。
「……ここ、静かだし、誰もいないし、ひっそりと暮らすにはもってこいかもしれないな」
食器もできてしまい手持ち無沙汰になった俺は時折索敵スキルを使っていたのだが、やはり魔獣の姿はどこにもない。動物でもいいかと思っていたが、そちらも確認できなかった。
食事事情は要改善が必要だろうが、そこにも一つの光明を見い出しているので問題はないだろう。
「……よし、決めた! 俺はここで暮らすぞ! ここに家を建てて、スローライフを送るんだ!」
そうと決まればすぐに行動だ!
――ぐううううううぅぅ。
「……そ、その前に腹ごしらえだ!」
出来上がったスープを食器に注いで一気に飲み干した俺は、予想以上の美味しさに少しばかり驚いたもののすぐに立ち上がって周囲を見渡す。
「魔法を使えばあっという間だが、できるだけその場所を崩さずに建てたいよな」
辺境の村で暮らしていたからだろうか、自然をそのまま活かせるのであればそれを利用して生活を送りたいと考えてしまう。
魔法で地均しをすることも可能だが最終手段に取っておく。
しばらく歩き回っていると、望んだような平地で木々も少ない場所を見つけたので俺はそこに家を建てることを決めた。
「まずは木材の調達だけど、これに関しては森の中なわけで問題はない!」
木材の調達には魔法を使う。素手で木を切るとか、さすがに無理だからな。
風魔法のウインドカッターで俺が両手を広げても抱えられないほどに大きな大木をあっさり切り倒すと、さらに加工を施して建築予定地に運んでいく。
一本がとても重いはずなのだが、軽々持ち上げることができたことにも驚いたものだ。……まあ、魔法で運んでいるから関係ないけど。
「よし! 必要な木材は調達できたし、次は組み立てだな!」
本当に勇者なのかと疑いたくなるのだが、何故かスキルの中に建築スキルがあった。
普通は大工などの生産職に発現するスキルで戦闘職が持つようなスキルではないはずなんだが、よく分からない。
考えたところで分からないのであれば、俺はスキルをただ利用するのみだと頭の中を切り替える。
土台となる場所に大きめの石を敷いて木材を重ねていくと、次に側面を組み立てていく。
本当なら凝った造りにしたいのだが、雨風を防げる場所を早めに確保する必要があるので今は簡単な造りだ。
「このスキルがあれば、何度だって造り変えられそうだもんな」
恐ろしいことだが、本当にできそうだから何も言うまい。
空気の通り道になる窓もしっかりと作り三面が出来上がると、扉を付ける正面に取り掛かる。
釘も丁番も全てが木製なので強度の心配はあるものの、鑑定スキルでとても硬い木を選んだのできっと大丈夫なはず。
最後は屋根となる部分に薄く切った木材を並べてつなげると完成だ。
「……まあ、初めてにしては上出来じゃないか?」
俺は額に浮かんでいた汗を拭いながら満足気に出来上がった家を見つめている。
家具も作らなければならないが、今は家を一人で作ったという感動に浸っておこう。
――ぐううううううぅぅ。
……うん、やっぱりスープだけではどうしようもなかったか。
「……肉が、食べたいなぁ」
よし、次にやるべきことが決まった。
お肉の確保だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます