第53話:シェリカという人物
「シェリカは、教会に足を運んでは捨てられた子供たちと遊んだりしているのよ」
「子供が捨てられるのか? だって、職業ランクを確認するのはもっと大きくなってからだろう? 俺なんて、十五歳になった時だったぞ?」
「都市によって異なるみたいね。私は十二歳の時だったわ」
おいおい、そんな簡単に言っていいことなのか? 職業ランクの確認は、その者の人生を左右する大事だぞ?
「でも、ほとんどの子供はまだ職業ランクが分かっていない子ばかりよ」
「そ、そうなのか? でも、それならどうして?」
少しだけホッとしながらも、なら捨てられる理由がよく分からない。
俺の疑問に気づいたのだろう、ルリエはそのまま理由を教えてくれた。
「親が、育てられないと捨ててしまったのよ」
「その親が、Nだったってことか?」
「そういうこと。Nには人権がほとんどないから結婚なんてできないけど、男女の仲はそういった世間の風潮も吹き飛ばしてしまうのよね」
……いや、格好よく言っているけど、それも一つの問題になるんだが。
人権がないことも問題だが、何よりもN同士から生まれた子供が一番の被害者になってしまう。
自分たちが生きるので精一杯なわけで、そこに守らなければならない小さな赤ちゃんが突然現れたら……悲しいが、捨ててしまう親も出てきてしまうだろう。
「教会は、そういった捨てられた子供たちを集めて、一手に世話をしているのよ」
「そこにシェリカさんが足を運んでいるのか?」
「えぇ。人数も多いし、子供ばかりだけど、今のところは教会のおかげで生活はできている。だから前回は声を掛けなかったのよ」
「……それは、ここの情報がシェリカさんに漏れるのも恐れてってことか?」
「そうよ。スウェインに確認が必要と思ったの」
……考えがそこに行きつくなら、最初からそうしてくれと切に思うよ。
「だがまあ、確かに子供を勝手に移住させるわけにはいかないか」
「それに、子供たちもシェリカに懐いているの。もしシェリカが移住するとなれば、もしかしたら子供たちも連れてくることになるかも……」
そうなると、俺の予定からは大きく変わってきてしまう。
そもそも、シェリカには話術士として行商人をお願いしようとしていた。
ということは、ブレイレッジからも離れることが多くなり、そうなると子供たちが寂しい思いをしてしまう。
あくまでも全員が移住した場合の話だが、子供たちに寂しい思いはさせたくないな。
「でも、このままボートピアズにいたとしても、真っ当な生活は送れないのでは?」
「リリルさんの言う通りなんだけど、シェリカの生活もあるし、なかなか難しいところなのよ」
「……まあ、とりあえずはシェリカさんの決断次第ってことになりそうだな」
大前提として、シェリカさんが移住を決めなければ話は進まないのだ。
ならば、直接話を持っていくのが早いだろう。
「それじゃあ、俺とルリエで行くってことでいいのか?」
「えっ? そんな簡単に決めてもいいの?」
「いや、決めるのはシェリカさんだから。俺はただ、話を持っていくだけ。それに、ルリエから見てシェリカさんは信用できる人物なんだろう?」
「もちろんよ!」
「なら、問題ないさ。断るようなら、秘密を守ってもらうだけだし、来てくれるなら全力でそのサポートをするだけだ」
そう口にした俺は立ち上がると、必要な荷物も空間庫に入れて準備を始める。
「リリルには、俺たちの不在を任せるけど大丈夫だよな?」
「問題ないわ! ……とは言っても、私にできることは敵を追い払うことくらいだけどね」
「それだけじゃないさ」
「そうかしら?」
「あぁ。リリルがいるだけで、みんなが安心して笑うことができる。十分だろう?」
魔王の娘ではあるが、リリルはブレイレッジの住民にとても信頼されている。
まあ、ルリエもそうだけど、住民を連れてきたのが二人だからな。俺よりも信頼されているんじゃなかろうか。
とまあ、嫉妬するのは止めるとして、リリルとルリエのどちらかが残っていれば、ブレイレッジは全く問題ないんだよね。
「……は、畑のことは、ロロロロットさんに聞くからね!」
「ん? あ、あぁ、そうしてくれ」
……えっと、どうして顔を赤くしているんだろうか。褒められたのが、そんなに嬉しかったのか?
「……鈍感な男よね、本当」
「ん? 何か言ったか?」
「なんでもないわよー」
うーん。俺、何かしたか?
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