第14話 ボートピアズに到着しました
◆◆◆◆
魔獣を片っ端から狩り、そして空間庫へと投げる。
そんなことを繰り返しながら進むこと三時間ほど――俺たちはようやくボートピアズに到着した。
周囲を高い外壁が覆い隠しているボートピアズはこの辺り一帯の魔境を監視する役割を持っている。
とはいえ、勇者が殺されるまでは戦力が拮抗していたのでそうそう魔獣が現れるということもなかったわけだが、今はいったいどうなっているのやら。
門の前まで移動すると衛兵から明らかに怪しそうな視線を向けられたのだが、同行しているリリルの身だしなみが整っていることもあり問題なく通してもらうことができた。
「あいつら、絶対に俺のことを奴隷かなんかだと勘違いしているぞ」
「中に入れれば問題ないんじゃないの?」
「……はぁ。一応、俺が家の主なんだぞ?」
「もちろん、私は感謝しているわよ」
「ガウガウッ!」
一人と一匹に慰めながら足を進めると、そこは故郷の村とは世界ががらりと変わってしまうほど多くの人が行き交い、丈夫で高い建物が連なっている光景だった。
平屋でもなく、二階建ての建物が所狭しと並んでいる。そして、多種多様なお店が並び田舎者なるだしで目移りしてしまう。
「……スウェイーン?」
「はっ! いかん、いかん! こんなんじゃあ誰かに俺という存在がバレてしまうじゃないか!」
「そこまで警戒しなくてもいいと思うんだけどなー」
「ガウー」
「念には念をだよ。とりあえず……お金の調達からだな」
そう言って歩き出した者の、俺はどこに素材を売りに出せばいいのか分からずすぐに立ち止まってしまう。
「素材の売買は冒険者ギルドか、そうでなければ素材屋への持ち込みよ」
「……リリル、どうしてお前の方が詳しいんだ?」
こいつ、魔王の娘なんだよな。
「大きな声では言えないんだけど、人界に興味があってちょこちょこ足を運んでたのよ」
「マジかよ。英雄や都市の衛兵は何をしてたんだか」
「偽装スキルって分かるかしら? あれで見た目を偽装したり、職業だって偽装できるんだから」
そこまでして人界に足を運ぶって、どれだけの好奇心が強いんだか。
しかし、今回はその好奇心のおかげで目的地へと真っすぐに進むことができたので文句は言えない。
――カランコロンカラン。
俺たちが入った建物は、素材屋だ。
冒険者ギルドの場合は冒険者を相手に買取りをしているようで、冒険者ではない者が売買をする時には多少の手数料が取られてしまう。
その分、適正価格を知っている職員が対応するので素材屋にぼったくられる心配がない。
冒険者ではない者の多くは素材屋へ直接持ち込むのだが、この場合だと逆に自分が適正価格を知らなければ安く買いたたかれることもあるのだとか。
俺の場合は今回限りになると思うので、滞在と装備購入に必要なお金が手に入ればぼったくられても構わないと思っている。
「あのー、すみませーん」
……返事がない。
「あのー、誰かいませんかー?」
「ここにいるにゃ?」
「どわあっ!?」
誰もいないと思っていたカウンターから声がしたので驚きの声をあげてしまう。
そのままカウンターに目を向けたのだが……あれ、いない?
「おーい、こっちだにゃー」
「えっ?」
……おぉぅ、とってもかわいらしい白毛の猫獣人じゃないですか。
カウンターに隠れて見えなかったけど、俺の腰くらいまでしか身長がないんじゃあ仕方ないか。
「お客さんかにゃ?」
「えっと、あー、はい、そうです」
「ふーん……見たところ何にも持ってないけど、空間庫持ちかにゃ?」
「はい。その、結構な量があるんですけど、買取りは大丈夫ですか?」
「……ほほーう」
俺の言葉を聞いた猫獣人の目が何やらキラリと光ったように感じたが、気のせいだろうか。
「量があるなら、こっちに来て欲しいのにゃ」
猫獣人はカウンターを出ると奥にある扉から中へと行ってしまう。
部外者の俺たちが入っていいのか思案していると、猫獣人が顔を出して手招きしてきたので恐る恐る足を進める。
すると、そこは持ち込まれた素材を解体する解体所となっていた。
「自分たちで解体できない場合は魔獣をそのまま持ち込む奴もいるのにゃ。お前たちはどうかにゃ?」
「一応の解体は済ませています」
「それは助かるにゃ。解体までやると手数料を貰うけど、結構手間なのにゃ」
そう言いながら猫獣人は何もない床を指差してきたので、ここに出せということだろうと理解し空間庫から解体した魔獣素材を取り出していく。
最初はボートピアズ付近で狩った魔獣の素材から出していき、徐々に森の近くで狩った魔獣の素材を取り出す。
猫獣人も最初はうんうんと頷いていたのだが徐々に目を見開いていき、最終的には小躍りするほどに興奮していた。
「おぉーっ! これは素晴らしい素材なのにゃ! ポイズンスネイクもあれば、オークまであるのにゃ! おぉっ、こっちはフレイムホースじゃないかにゃ?」
「あっ! すみません、こっちは違うんです」
「そうなのかにゃ?」
少し残念そうにフレイムホースの素材を見つめている猫獣人。
そのまま売ってあげたい気持ちもあるが、これは俺の装備に変わる素材なので売ることはできないのだ。
「……もしかして、持ち込みで装備を作るのかにゃ?」
「そうです。やっぱりよくあることなんですか?」
「そうだにゃ。でも、一見さんを断る職人も多いから、受けてくれる職人となると若い人ばかりで腕の保証はできないのにゃ」
むむ、それは困ったな。
せっかくお金を払って作るのであれば満足いく装備を手に入れたいし、苦労して手に入れた素材を無駄にされたくもない。……まあ、苦労したっていうところは若干語弊が混ざっているけど。
「もしよければ、僕が加工をしようかにゃ?」
「えっ! ……でも、ここって素材屋ですよね?」
「これでも元は鍛冶師だったのにゃ。自分で言うのもなんだけど、そこら辺の鍛冶師よりも腕はいいと自負しているのにゃ!」
これはぼったくりなのか、どうなのか……判断ができない。
「……ガウガウッ!」
「どうしたんだ、ツヴァイル」
「ガウッ! ガウガウッ!」
「お願いした方がいいってか?」
「ガウッ!」
「にゃはは、どうやら神獣様にはお見通しみたいだにゃ」
「えっ! ツ、ツヴァイルが神獣って、どうして分かったんですか?」
一目見ただけで見分けがつくものなのか? それとも、素材屋として鍛えた目利きがものをいったのか?
「獣人は神獣様を崇めているのにゃ。だから、説明は難しいんだけど神獣様を見た時からビビッときてたのにゃ」
「……はぁ」
「神獣様の前で嘘をつく獣人はいないのにゃ」
とても嬉しそうにそう語る猫獣人を見て、俺はツヴァイルの判断を信じることにした。
「では、お願いします。……えっと」
「申し遅れましたにゃ。僕の名前はシルクだにゃ!」
「スウェインです。よろしくお願いします、シルクさん」
そして、シルクさんとは装備の要望について軽く詰めた話をして別れたのだった。
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