第17話 宿屋見つかりましたよ
冒険者ギルドを後にした俺たちは、その足で今度こそ宿屋を見つけることにした。
そして、今回の問題点はツヴァイルを中に入れても問題がない宿屋を見つけることだった。
基本的に獣魔契約をしていても魔獣は獣魔小屋に入れられるらしく、ツヴァイルの大きさならばほぼ確実なのだとか。
最初に訪れた宿屋も、次もその次も、ツヴァイルなら獣魔小屋になると言われてしまい泣く泣く諦めた。
「……ツヴァイル」
「……ガウ?」
「……もう、獣魔小屋でもいいか?」
「ギャンギャン!」
……嫌だよなー。俺だって、ツヴァイルの立場だったら嫌だもんよ。
しかし、そうなると値段の高い宿屋に泊まらないとダメかもしれない。
次の宿屋に行ってみて、もし同室を断られたら値段の高い宿屋を当たってみるか。
そんな気持ちで入った宿屋だったのだが、ありがたいことにツヴァイルの同室を許可してもらった。
「毛並みも綺麗だし、汚さないことを約束してくれたら問題ないよ!」
そう言ってくれたのは恰幅の良い女主人だった。
値段もお手頃で一人当たり一泊で1000
ちなみに、二泊分の支払いを済ませた俺の懐にはまだ5000Dも残っているので栽培する為の種や苗を買うことも問題なさそうだ。
「おや、早速デートかい?」
「ち、違いますから!」
女主人に茶化され、慌てて否定しながら宿屋を後にしたのだが、何故か突然リリルの機嫌が悪くなってしまった。
声を掛けても返事がなく、しつこく声を掛けると怒った声で返事をしてくる。
……俺、何かしただろうか。
そんな感じで歩いていると、俺たちは目的の場所に到着した。
「ここが情報屋か」
情報屋についてはリリルが冒険者ギルドで話を聞いておいてくれたのだ。
ここでは知りたい情報をお金で買うことができるのだが、情報の価値によって値段が上下する。
まあ、俺が知りたいのは世界情勢であり、調べれば情報屋を利用せずとも知ることができる情報なのでそこまで高くはないだろうと思っている。
俺が情報屋を利用するのは、その調べる時間がもったいないからだ。
「なんだか、偽装スキルを使ってからはやけに行動的になったわよね」
「ガウガウ」
「いやー、街の中を歩いてたら、俺がどれだけ世間知らずだったのかを思い知らされたからなー」
機嫌が直ったのかリリルから声を掛けてくれたのだが、その内容に俺は笑いながら答える。
……これ、絶対に茶化してるよな。態度をコロッと変えたから、いじってきてるよな。
「……まあ、私も話し相手がいてくれた方が面白いし、構わないけどね」
「……そ、そうか?」
「ガウガウッ!」
「ツヴァイルもスウェインと一緒がいいもんねー」
「ガウッ!」
……お前たち、嬉しすぎて泣けてくるじゃないか!
「それじゃあ、さっさと情報を仕入れて街に繰り出すか!」
そう言って、俺は意気揚々と店員に声を掛けた。
「世界情勢だって? ……3000Dだな」
「さ、3000D!? いや、高くないか?」
「なんだ、あんたもしかして田舎者か?」
田舎者という言葉に少しムッとしてしまったが、店員は特に気にする様子もなく理由を教えてくれた。
「今は勇者が死んで、情勢も一日単位で変化しているからな。勇者が生きていた昔ならいざ知らず、今となっては値段が跳ね上がっちまったんだよ」
「……そ、そんなぁ」
手持ちのお金は5000Dなので買うことはもちろんできる。
しかし、そうすると滞在する二日間は質素に暮らさなければならなくなるのだ。
「仕方ないわよ、買ったら?」
「……いいのか、リリル?」
「むしろ目的がそれなんだから買うの一択でしょうよ」
「ガウッ!」
「……それも、そうだな。すまん」
というわけで、俺はその場で3000Dを支払って世界情勢についての情報を買った。
「いいか、これはあくまでも現在の情勢だ。さっきも言ったが、一日単位で変わることもあるから気をつけろよ?」
店員に念を押された俺は、三枚の羊皮紙を受け取る。
一枚目には、人族が確認できている分の世界地図に人界と魔界の境が描かれている。
二枚目には、境に面している人族と魔族の戦力や有力な人物などが記されている。
三枚目には、ここ最近で起きた人族側の情勢に関わる情報はいくつか記されていた。
「……ありがとう、助かったよ」
「獣魔を連れているから大丈夫だとは思うが、奪われるなよ? 羊皮紙三枚だが、3000Dの価値を持つ情報だからな」
「気をつけます」
「なーに、また何か知りたいことがあれば寄ってくれ」
利用するのは多分、最後になると思うけどあえて口にすることなく軽い会釈で返した。
「これからどうするの?」
カウンターを離れた俺にリリルが声を掛けてきたので、今日に関しては俺の我儘を聞いてもらうことにした。
「一度、宿屋に戻って情報を確認したい。時間が掛かるかもしれないから、リリルとツヴァイルは遊びに行ってても――」
「それじゃあ私も戻ろうかな」
「ガウガウ」
「えっ? いや、俺に気を使わなくてもいいんだぞ?」
まさか一緒に戻ってくれるとは思っていなかったので聞き返してしまった。
だが、どうやら聞き間違いとかではないようで本当に戻る気満々のようだ。
「明日は一日フリーになるんでしょ? だったら、明日みんなで遊びましょう!」
「ガウガウッ!」
「……そっか。リリル、ツヴァイル、ありがとう」
俺がお礼を口にすると、リリルは照れてしまったのかそっぽを向いて先に歩き出してしまった。
その横に俺が並び、逆側にツヴァイルが寄り添う。
……あれ、なんだかこれって、デートみたいじゃないか?
そんなことを勝手に考えながら、俺たちは宿屋に戻ってきたのだった。
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