第44話:住人候補ですか?

 数えてみると人数は六人。

 若い男性が一人に女性が三人、そして男の子と女の子が一人ずつ。


「……あの、ルリエさん? リリルさん? これはいったいどういうことですか?」


 何が起きているのはさっぱり分からない俺は二人に説明を求めた。


「スウェインは元Nだって言ってたわよね?」

「そこで私たちは考えたの」


 ……えっと、まずはその元Nだってことを後ろの方々に隠すべきではないかな?


「ここに、Nの人たちが安心して暮らせる集落を作れたらいいなってね!」

「それも、魔族のRも集めることで、人族も魔族も分け隔てなく暮らせる集落をね!」

「うん、とりあえずそういう大事なことは俺にも相談して決めてくれ」


 いきなり言われて、はいそうですか。と納得できるはずがない。

 それに、俺が求めているのはスローライフであって、集落を作ることではない。

 そんなことをしてしまっては、俺のスローライフが遠ざかってしまうじゃないか。


「……あ、あの」


 その時、大人の男性が恐る恐る声を掛けてきた。


「も、もし、ご迷惑であれば、俺たちはすぐに出て行きます。Nなんて、騙されることも慣れてますから」


 その顔は笑っているが、内心では悔しさを滲ませていることだろう。

 ……分かるよ。俺もそうだったから。


「……はぁ。とりあえず、ここでは何ですから家に行きましょう。ちょうど完成した大きな家がありますから、全員は入れますよ」


 こんな森の中で放り出すこともできず、まずは話を聞こうと俺は歩き出す。

 その背中にリリルが続き、ルリエが六人に声を掛けているのが聞こえてきた。


「……ねえ、スウェイン」

「なんだ」

「……その、ごめんなさい」

「悪いことをしたって自覚はあるんだな」

「……本当にごめんなさい。でも――」

「話は家で聞く。……はぁ。こんな時の為に、建てたんじゃないんだけどなぁ」

「えっ?」


 疑問の声が聞こえてきたが、俺は構うことなくスタスタと歩いていく。

 リリルも俺に気遣うように無言でついてきたのだが、元俺の家が見えてきて、さらにその周囲に別の家が建っているのを見つけると歩調がゆっくりになっていくのが分かった。


「……ちょっと……スウェイン、これって?」

「驚いたか? 建てたのは新しい俺たちの家だけじゃなかったんだよ」

「……えっと……やり過ぎじゃない?」

「それをお前が言うかよ!」


 やり過ぎなのはお前たちだ!

 そもそも、二人が出発した時には元俺の家しか建ってなかったんだからな!

 それも集落にしようだなんて、やり過ぎ以上に無理難題だろうが!


「な、なんだこれは!?」

「……おぉぉ……これは、すごいですね!」

「……ここは、森の中、なんですよね?」

「うわあっ! きれいなおうちさんだー!」

「でかいな! とうちゃん、でかいな!」

「……ね、姉さん、これは、夢なのかな?」

「……分からないわ」


 子供たちはとても賑やかだが、大人たちは驚きのあまり現実ではないと思っているらしい。

 まあ、森の中に突然家が何軒も現れたら、夢だと思うわな。そこに職業ランクNが重なれば、信じられないのも仕方がないか。


「皆さん、お腹は空いていませんか? 食事をしながら話をしましょう。あいにく、俺はこっちの二人から何も聞かされていなかったものですから」

「……すまん、スウェイン」

「謝罪はリリルから聞いた。全く、こんな大掛かりなことを勝手に進めやがって。俺が納得しなかったら、お前たち二人だけでどうするつもりだったんだ?」


 俺の質問にルリエは口を噤んでしまい、心なしか顔色が青くなってきた気がする。


「……何も考えてなかったんだな」

「……本当にすまない」

「とりあえず中に入ろう。あー、子供もいるから何か甘味が必要だな。……よし、あれを出すか」


 そんなことをぶつぶつと呟きながら家の中に招き入れると、今度は全員が口を開けたまま固まってしまった。

 玄関を入るとすぐにリビングが広がり大きなテーブルがドンと待ち構えている。

 そのすぐ横には座っている相手とおしゃべりをしながらでも料理が作れる台所を作ってみた。

 そして、リビングからつながるドアが四つあるのだが、三つがそれぞれの部屋につながっており、もう一つの部屋は倉庫になっている。

 空間庫を持っている俺は必要ないが、女性ならではの必要な道具もあるだろうから作っておいたのだ。


「……まさかの二階建て」

「……ね、ねえ、スウェイン。二階には何があるんだ?」

「今のところは特に何もない、空き部屋があるだけだ。そんなことよりも座ってくれ。俺は料理の準備をするからさ」

「わーいわーい!」

「ごはんだー!」


 うんうん、子供は賑やかな方がいいね。見ているこっちが元気になるよ。

 俺は子供たちの頭を撫でると、そのまま台所に移動して料理を始めた。

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