第30話:境に到着しました
ボートピアズを出発してから三日目、俺たちはついに目的地である人界と魔界の境に到着した。
「境って、こうなっているんだな」
「見たことなかったの?」
「……あるわけないだろう」
人界と魔界の境には、半透明の壁が蜃気楼のように揺れている。
手を伸ばすと熱くも冷たくもなく、しかし侵入を阻むかのように押し返されてしまう。
幸いなことに、俺の家がある場所からはやや離れていたので今のところは見つかっていない。
しかし、調査をする場所によってはバレる可能性もまだあるので注意が必要だ。
「ここから右と左に分かれて調査を行うんだけど、そっちは一緒でいいのかしら?」
「あぁ。SRとRだからな」
「ツヴァイルも一緒なの?」
「俺の獣魔だからな。そっちは一人でも大丈夫なのか?」
「誘ったのは私なんだし、スレイたちの安全が第一よ」
一応声を掛けてみたのだが、ヴィリエルは本気で俺たちのことを心配してくれているのか即答でそう口にした。
なんだか申し訳ない気持ちになってしまうが、俺のスローライフを守る為だから仕方がない。
「それじゃあ、俺たちは右側を調査してくるよ」
家があるのも右側だしな。
「だったら私は左側ね。もし空虚地帯があっても、魔界に足を踏み入れないでね。魔獣が人族の匂いを嗅ぎつけて寄ってくるかもしれないから」
「分かった、気をつけよう」
「太陽が45度の角度まで下りてきたら、またこの場所に集まりましょう」
集合時間の確認を終えると、ヴィリエルは早速左側の森の中へ消えてしまった。
「……さて、それじゃあ俺たちも行くか」
「あら、調査はちゃんと行うのね」
「一応、正式な依頼だからな。俺の評価はどうでもいいが、嘘をついてヴィリエルの評価が下がるのは嫌だからな」
受けたからにはしっかりとこなして見せる。……スローライフを守るのが最優先だが。
というわけで、俺たちは境に沿って右側の森を進んでいく。
時折魔獣が現れるものの、そこはツヴァイルが一噛みで仕留めては俺のところに運んできてくれる。
素材としても使えるし、何より食料が増えてくれるのはありがたいのですぐに空間庫へ入れていく。
「こんな時にも素材集めなの?」
「いつ何が起こるか分からないからな。それに、ヴィリエルにも言ったが容量には余裕がある」
というか、俺の空間庫には限界が無いのでなんでも入れておけるんだがな。
「うーん、空虚地帯なんて何処にもないなぁ」
「……おかしいわね」
「何がおかしいんだ?」
俺の呟きに対して、リリルが腕を組みながら考え込んでいる。
空虚地帯なんてそうそう発生するものでもないだろうし、普通ではないのだろうか。
「空虚地帯っていうのは、小さなものであれば結構あったりするのよ」
「えっ? そうなのか?」
「ヴィリエルも言っていたでしょう? 小さな空虚地帯は仕方ないって。あれは、小規模の空虚地帯なら結構あるって意味なのよ?」
「……知らなかった」
俺がツヴァイルを助けに行けたのも小さな空虚地帯が発生していたからなんだろうな。
「それに、発生し難い大規模な空虚地帯まで多くなっているって言ってたのに、発生しやすい小規模な空虚地帯が見当たらないというのは、それだけでおかしなことなのよ」
ということは、何か良くないことがここで起ころうとしているってことなのか? ……俺の家がある、この森で?
「……ねえ、スウェイン」
「スレイな」
「……い、今はいいじゃないのよ!」
「スレイな」
「分かったわよ! ……スレイ、良くない噂話があるんだけど、聞きたい?」
「聞きたくないって言っても、言うんだろ?」
そして、この噂話が空虚地帯が見つからない理由の一つになっているんだろうな。
「大規模な空虚地帯が発生する前には、小規模の空虚地帯も発生しなくなるって噂よ」
「……えっと、それはつまり――」
「ここに大規模な空虚地帯が発生する可能性が高いってことよ」
「グルルルルゥゥ」
リリルが言い終わるのとほぼ同時に、ツヴァイルが唸り声をあげた。
周囲に魔獣の気配はなく、何に対して唸り声をあげているのかが分からない。
「……これは、噂話の正解を目の当たりにするかもしれないな」
「集合場所に戻った方がいいかしら」
「まだ日は高い。俺たちが戻ったところでヴィリエルがいないだろう」
「アオオオオオオォォン!」
あぁ、そうか。
ツヴァイルがずっと魔界の方向を見て唸り声をあげていた理由が分かったよ。
「……ツヴァイル。ここに、大規模な空虚地帯が発生するんだな?」
「ガウガウッ! ガウガウガウッ!」
「境が――消えるわよ!」
――ドンッ!
耳をつんざく音が響き渡るのと同時に地面が大きく揺れる。
それも一度ではなく、その揺れがしばらく続く。
そして、先ほどまでは手を伸ばすと人界と魔界の境を阻まれていた半透明の壁が消滅してしまった。
「……今の音と地震があれば、ヴィリエルも気づくよな」
「……そうでしょうね」
「グルルルルゥゥ!」
……おいおい、マジかよ。
人族は分からなくても、魔族には分かってしまうってか?
「なんでこのタイミングで、魔族の大群が押し寄せてくるんだよ!」
魔界の方からは砂煙を上げてこちらへと迫ってくる魔族の大群が姿を現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます