第31話:魔獣の侵攻

 二桁を優に超えるだろう数の魔獣が迫っており、さらに後方には無視できない程に大型の魔獣が地響きを起こしながらゆっくりと近づいている。


「……おいおい、あれはベヒーモスじゃないか?」

「大型魔獣の中でも、厄介な相手ね」

「そういえば、魔人には職業ランクがあるって言ってたが、魔獣にもあるのか?」


 同じ魔族ではあるが、魔人と魔獣では知恵のあるなしもそうだが、個体の能力という点でも大きく異なってくる。

 ベヒーモスのような例外的に強い魔獣もいるが、それらにもランクがあるのかが場違いにも気になってしまった。


「魔獣にはないけど、個体によって強さをランクで表現することはあるわ」

「ちなみに、ベヒーモスはどの程度なんだ?」

「……SRか、URと同等の強さを持っているわ」


 うーん、勝てるかな、あれ。


「逃げの一手を打つことはできるか?」

「できるけど、ここの一帯は間違いなく魔界の領域になって更地になるでしょうね」

「……俺の家も? 畑もか?」

「当然ね」


 ……絶対に何とかしなければならないな。

 剣術スキルがあるとはいえ、山のような巨体で動いているベヒーモスを斬ることができるだろうか。

 フレイムホースが珍しいとはいえ、ベヒーモスほどではないだろうしな。


「まあ、剣がダメなら魔法をぶっ放せば――」

「ちなみに、ベヒーモスの甲羅には魔法耐性が施されているから、遠くから魔法でなんて戦法も通じないわよ?」

「……だったらどうやって倒せって言うんだよ! 教えてくれ、魔王の娘様!」


 せっかく作った家や家具、そして何より畑で育った野菜たちが踏みつぶされる姿なんて見たくないんだよ!


「方法は一つ。甲羅に魔法耐性が施されているということは、その甲羅に少しでも傷を刻むことができれば魔法耐性効果が薄まるわ」

「ってことは、あの山のように巨大なベヒーモスに取り付いて甲羅を攻撃し、さらに傷までつけた後に魔法をぶっ放せってことか?」

「そういうことよ。理解が早くて助かるわ」

「無理に決まってるだろうが! 第一、ベヒーモスの甲羅は超硬質で有名じゃないか! それに傷をつけるなんて、聖剣や魔剣でもなかったら無理だろう……って、聖剣?」


 そこで思い出したことがある。

 ツヴァイルを助けた時に顕現した光の剣。あれはもしかして、が発動したんじゃないだろうか。

 自らに鑑定スキルを掛けて調べたことがあるのだが、確かそんな名前のスキルがあったはずだ。……まあ、魔剣スキルもあったけど。

 俺って、勇者なんだよな。なんで魔剣スキルがあるんだろうか。


「ちょっと、どうしたのよ!」

「ん? あぁ、ごめん。考えごとをしてた」

「こんな時に考えごと? 全く、当代の勇者様は暢気なものね」


 し、仕方ないじゃないか。俺だって自分が勇者だといまだに自覚できてないんだから。

 だが、聖剣スキルに魔剣スキルまであるなら甲羅を傷つけて魔法を放つことも可能かもしれない。

 問題は、どうやって近づくかである。


「リリルの魔法で群れを一掃することはできるか?」

「多少は削れるけど、ベヒーモスまでの道を作るのは無理だわ」

「なら、俺が魔法で相当数を削るから、その後に道を作って――」

「ガウガウッ!」


 ここで突然ツヴァイルが俺のズボンの裾を咥えて引っ張ってきた。


「どうしたんだ、ツヴァイル。お前ではあの群れを一掃することは無理じゃないのか?」

「ガウガガウッ! ガウガウガーウッ!」

「……そうか。ツヴァイルならブレスを吐けるじゃないのよ!」

「ガウガウッ!」


 魔獣の群れは任せろと、ツヴァイルは言っている。

 だが、あれだけの数の魔獣を一掃できるほどの威力を出せるのかが心配だ。


「ガウッ! ガウガウッ!」

「俺を信じろってか?」

「ガウッ!」

「……分かった、信じよう」


 ツヴァイルの頭を撫でながら、俺は作戦を口にする。


「魔獣の群れを一掃する役目はツヴァイルに任せる。その後、俺はベヒーモスめがけて一直線に突っ込むから、その間の護衛をリリルに任せたい」

「もちろんよ。威力が出せない分、膨大な魔力量にものを言わせて数で勝負してやるんだから!」

「……さすがは魔王の娘、やることが派手だな」

「あら、勇者に言われたくはないわね」


 冗談交じりにそう口にしたのだが、この軽口が災いを呼び寄せてしまった。

 正面の魔獣に意識を集中するあまり、こちら側から近づいて来る者に全く気づいていなかったのだ。


「――魔王の娘に、勇者ですって?」


 俺たちは弾かれたように声の方へ振り返ると、そこには大剣を構えたヴィリエルが立っていた。

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