第7話 謎の女性を助けよう
今日の散策は森の中、つまり人界の散策である。
シャドウウルフなど人界に生息域を広げている魔獣も数多くいるのだが、不思議のこの森ではいまだに魔獣の姿を目にしていない。
動物すらいないので何か特殊な森なのかと思ってしまうが、それを俺が調べられるはずもないので根気よく散策を行っていく。
本来なら索敵スキルを使ってすぐに終わらせることもできたのだが、自分の目と足で確認したいというちょっとした冒険心もありスキルは使っていない。
「ガウガウッ!」
「分かった、そっちに行こう」
それに、ツヴァイルも楽しそうに散策に付き合ってくれている。
便利だからと言って何でもスキルに頼るのは良くないと心の底から思ってしまうな。
「おっ! この野草は美味しいんだよなぁ」
「ガウ?」
「なんだ、ツヴァイルは野草が嫌いか?」
「ガゥゥ」
「だったら、今度は俺が美味しく調理してやるからちゃんと食べるんだぞ。そうしないと、体調を崩すかもしれないからな」
「ガウッ!」
とは言ってみたものの、神獣って野草とか野菜とか食べるんだろか。とりあえず魔獣の肉は食べてたし大丈夫だとは思うけど。
「……まあ、自分の体に合わない食べ物だったら吐き出すだろう」
「ガウ?」
「ごめん、こっちの話だ。よーし、先に行くぞー!」
「ガウガウッ!」
ツヴァイルは先行して森の中へと進み、俺の視界から見えなくなるギリギリの位置で立ち止まり振り返ってくれる。
その姿が俺に懐いてくれているようでとても微笑ましく、そしてとてもかわいらしい。
ツヴァイルがいてくれたら、俺はずっとあの家で暮らしていけるだろうなと考えていたのだが。
「――きゃああああっ!」
突然、森の奥から女性の叫び声が聞こえてきたのだ。
「な、なんだ? なんでこんな森の中で女性の悲鳴が?」
「ガウッ! ガウガウッ!」
自分の足で、なんて言っている場合じゃないので俺は索敵スキルを使って悲鳴の主を探すことにする。
すると、俺たちが向かっている先に悲鳴の主と思われる反応が一つと、魔獣の反応が三つ確認できた。
「この反応は……シャドウウルフとポイズンスネイクか! 仕方がない、急ぐぞ!」
「ガウッ!」
ポイズンスネイクは名前の通り毒を持つ魔獣だ。
その毒が体内に入り込んでしまうと二時間もすれば死んでしまう。
すぐに毒を排出できれば大事には至らないが、今の状況がどうなのか分からないとなれば急ぐしかない。
風魔法で速度を上げていたのでツヴァイルがついて来れるか心配になってしまったが、どうやら俺の心配は杞憂だったようだ。
「ガウガウッ!」
「ははっ、分かったよ。もっと飛ばすぞ!」
速く走れるのが楽しいのか、ツヴァイルは声を弾ませて鳴いている。
ならばと俺は全力で森の中を駆け抜け、そして悲鳴の主を発見した。
「助太刀する!」
「えっ?」
「ガウガウッ!」
「えぇっ!?」
悲鳴の主はやはり女性だったようだが、俺とツヴァイルを見ると何故か驚きの声をあげている。
……まあ、よくよく考えるとこんな辺境の森の中でいきなり人と獣が現れたら驚きもするか。
「ツヴァイル、シャドウウルフの相手だがやれるか?」
「ガウッ!」
「頼もしい返事だ。それじゃあ任せたぞ!」
二匹いるシャドウウルフをツヴァイルに任せ、俺は長大な体でとぐろを巻いているポイズンスネイクと対峙する。
「ダメ! そいつは、魔界から私を追い掛けてきた個体よ! 普通のポイズンスネイクより、強い――ぐっ!」
「毒が回っているのか? それじゃあ、時間は掛けていられないな!」
『キシャアアアアアアアアッ!』
頭を一度引いたかと思えば、体中の筋肉をばねのように利用して一気に飛び掛かってくる。
聖剣スキルを発動させようかとも思ったが、面倒なので多撃必殺の魔法を叩きつけることにした。
「アースニードル」
『ギジャガガガガッ!?』
「……う……うそ……」
体を伸ばしきったところへ地面から伸びた大量の土の槍がポイズンスネイクの体に突き刺さる。
体を伸ばしたら5メートル近くある長大な魔獣だ、一撃必殺なんて格好つけて避けられてしまったら目も当てられない。
それならばいっそのこと、避けられないくらいに大量の攻撃を放ってしまえば後はどうとでもなると考えたのだ。
『ガガ……ガァ……ァァ…………』
最初は土の槍を抜くか壊すかしようと体を動かしていたのだが、徐々にその体は動かなくなり、最終的には自然と血抜きができた状態で死んでくれた。
「……あ、あの、ありがと――」
「よし! ヘビ肉ゲット!」
「そっちなの!?」
んっ? あぁ、ヘビ肉に興奮し過ぎてすっかり忘れていた。そうだ、俺はこの女性を助けに来たんだった。
「ガウガウッ!」
「おっ! ツヴァイルも倒してくれたみたいだな。おー、よしよしー」
「クウウゥゥゥゥン」
……よし、一通りツヴァイルを撫でまわしたところで立ち上がった俺は女性に手を伸ばす。
「……」
「あのー」
「……」
「すみませーん」
「……」
「……わあっ!」
「きゃあっ! ……いったぁ」
「ご、ごめん! そうだ、毒が回っているんだったな」
いかん、いかん。とりあえず解毒から先に終わらせないと。
「キュアポイズン」
女性の肩に手をかざして魔法を発動させる。
体内に入り込んだ毒が残っていると魔法発動に際して顕現する光が緑色をしているのだが、完全に排出されると光は白色に変化する。
そして、毒の排出が完了したのを見て傷の治療に取り掛かった。
「ヒール」
こちらは単純に外傷を治療する魔法だ。
傷口に白い光が顕現し、傷が塞がると光は自然と消滅する。
「……よし、一通りの治療を終わったかな。あの、体は動かせそうですか?」
「……」
……えーっと、またこのパターンですか?
「……あのー!」
「はっ! あの、その、ごめんなさい、いえ、ありがとう!」
「どういたしまして。それで、体は動かせそうですか?」
「……えぇ、大丈夫そうよ」
最初は座ったまま肩を回していた女性は、返事をして立ち上がると何度か屈伸をしている。
その動きから体を動かし慣れているように見えたので、こんな辺境まで足を延ばしたということは冒険者か何かだろうかと推測する。
「あの、どうしてこんな辺境の森の中にいたんですか? それに、先ほどの魔獣は魔界からあなたを追い掛けてきたって言ってましたけど、魔界に用があったんですか?」
「……その、とても言い難いんですが」
そこまで口にして黙り込んでしまった女性を見ると、俺が聞いていいような話ではないんだと察しが付く。
「いえ、言いたくなければ別にいいんです。とりあえずあなたが無事で――」
――ぐううううううぅぅ。
……えっと、今のは俺のお腹ではないぞ。ツヴァイルかなと視線を向けたが……首を横に振っている。
となると、お腹を鳴らした人物は一人しかいない。
「……!」
……めっちゃ顔を赤くしていらっしゃいます。
「と、とりあえず、俺の家に行きませんか? その、ご馳走します、よ?」
「……本当に、ありがとぅ……」
最後の方は聞こえないくらいに小さな声になっていたが、俺は聞き返さないことにした。
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