第6話 畑を作ろう

 翌日、俺は食糧事情の改善を図る為に次の一手を打つことにした。


「畑を作ります!」

「ガウ?」


 肉が手に入る目処も付いたし、野草だってここには大量に自生している。しかし、野菜を野草にだけ頼っていては栄養バランスが崩れる恐れがある。

 近くの都市に足を運んで買い足せば良い話なのだが、俺の顔を覚えている奴がどこに紛れているか分からない以上、なるべく都市には近づかない方がいいだろう。

 ならばどうするべきかと考えた結果、自給自足で畑を作ってしまえばいいと結論付けたのだ。


「それに、畑を耕す為のスキルも見つけてあるしなー」


 これまた勇者とは思えないスキルなのだが、農耕スキルなるものがあったので試してみることにした。

 畑を作る場所は家の裏手、とりあえず縦横5メートルくらいの大きさで作ってみる。

 植える野菜についても考えており、すでに苗は手に入れていた。


「正直、これを植えるのは気が引けるけど……まあ、いきなり追い出されて必要なものを持ち出せなかったんだから気にする方がもったいないか」


 故郷の村を追い出される直前、荷物持ちだった時の空間庫に野菜の苗をいくつか放り込んでおいたのだ。

 とても小さな意趣返しのつもりだったが、まさかこんなところで役に立つとは思ってもいなかった。


「何の苗かは分からなかったけど……よし、鑑定ができるな」


 苗は三つあり、一つ目がキャロット、二つ目がポロ芋、三つ目がオーニオン。

 どれも一般的な野菜だが、だからこそ食べ慣れてもいるし今の俺にとってはとてもありがたい野菜たちだ。


「まずは土を作るぞ!」

「ガウッ!」


 木のクワを担いで裏手にやって来た俺は、気合を入れて振り下ろす。

 村にいた頃は親の手伝いで何度も繰り返し行ってきた動きなのだが、それが今では全く疲れることもなく、さらに手際よく動けていると実感できる。


「おぉ、これが農耕スキルか!」


 力の入れ具合、足腰の配置、そして土を均す作業など、その全てにおいて効率よく動けていることが手に取るように分かってしまうのだ。

 農耕スキルがあれば畑仕事も楽しくできるだろうなと考えていると、一時間もしないうちに土が出来上がってしまった。

 今までなら同じ大きさの畑の土を作ろうとしたら三時間以上は掛かっていただろうに驚きの結果だ。

 そして、これは農耕スキルと鑑定スキルの合わせ技なのだが、土の状態というのが視覚的に分かるようになってしまった。

 ただ土をひっくり返しただけなので完璧な土というわけにはいかないが、三つの野菜を育てるには申し分ない程度には出来上がっている。


「堆肥作りはまた今度だな。とりあえず植えてみて、育つのを待ってみるか」


 どうやら農耕スキル持ちが耕した畑では成長が普通よりも促進されるらしい。それがどれだけ影響を与えるのかは分からないが、早く食べられるならそれに越したことはない。


「……さて、これからどうするかなぁ」


 家具作りが一番だろうけど、せっかく畑を作ったのだからさらに良い土にする為に堆肥に必要な材料を探しに行くのもありだ。

 そんなことを考えていると、誰かが俺のズボンを軽く引っ張った。


「んっ? どうした、神獣?」

「ガウガウッ!」

「うーん、神獣から何かを言う場合、俺が理解できないんだよなぁ」

「ガウガガウッ!」


 神獣が何かを求めているのは理解できるのだが、それが何なのかが分からない。


「お腹が空いたのか?」

「ガガウッ!」


 首を横に振る。


「遊びたいのか?」

「ガ……ガガウッ!」


 ちょっと迷ったみたいだけど、これも違うか。


「うーん……神獣、いったい何を求めて――」

「ガウッ! ガウガウッ!」

「んっ?」


 なんか反応が変わったんだが……あー、もしかして。


「神獣って名前が気に喰わないのか?」

「ガウッ!」


 おぉっ、どうやらそうらしい。

 ということは、名前を付けて欲しいということだな。

 俺はモフモフの体毛を撫でながら神獣の名前を考え始めたのだが、これが意外と難しい。

 よくよく考えると、生まれてから今日までの間に名前を付けたことなんてなかったなと思い返していた。


「うーん……黒と白が混ざった体毛……モフモフ……顔は凛々しいなぁ」

「ガウッ!」

「おぉっ、嬉しいか、よしよしー」

「ガウウゥゥゥゥン!」


 可愛らしい名前を付けるのはかわいそうかな。それなら格好いい名前がいいんだけど、うーん……神獣だもんなぁ。

 神の使いで獣の姿をしている存在が、確かあった気がするんだけど。


「……あっ!」

「ガウ?」


 思い出した、これなら神獣にふさわしい名前っぽいし、何より響きが格好いいじゃないか!


「神獣、お前の名前は――ツヴァイルだ」

「ガウッ! ガウガウッ! アオオオオオオォォン!」

「よーしよし、気に入ってくれたみたいだな!」


 二色の体毛を持つフェンリル。

 あまりに長すぎても変だし、短くしてそれっぽい響きにしてみたけど、気に入ってくれたなら問題はないだろう。


「よーし、ツヴァイル! せっかくだしちょいと森の中を散策してみるか!」

「ガウッ!」


 気分を良くしたのか、ツヴァイルは元気よく返事をするとその場で跳ねて走り始めた。


「おいおい、俺を置いていくなよ!」

「ガウガウッ!」


 俺はツヴァイルを追い掛ける形で森の散策を始めたのだった。

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