第12話 一ヶ月が経ちましたよ

 森の中で暮らし始めてから一ヶ月が経った。

 リリルという同居人が増えたこと以外は特段変わったことはなく、順調にスローライフを満喫できている。

 そんな中での大きな変化と言えば、家の間取りを変更したくらいだろうか。

 リリルは問題ないと言うが、やはり俺の精神衛生上良くないと判断したので増築したのだ。


「こっちが俺の部屋で、あっちがリリルの部屋な」

「もう、スウェインのバカ!」

「何で怒るんだよ! 一人部屋なんだから文句を言うな!」


 魔族とはいえ女性なんだから、俺が変な気を起こさないとも限らないんだからな!


「欲しいものがあれば遠慮せずに言えよ。可能な限り作ってやるから」

「……分かったわよ!」


 ……だから、何で怒ってるんだよ。


 その次の変化は食糧事情だろうか。

 肉が無くなれば魔界に足を運んで魔獣を狩り、野草が無くなれば人界で採取を行う。そこに関しては何ら変わっていない。

 唯一の変化――この変化がとても大きいのだが――と言えば、家の裏手に作った畑である。

 収穫できるまで気長に待つかくらい適当に考えていたのだが、苗を植えてから一週間もしないうちに収穫することができたのだ。

 これも農耕スキルの効果なのだろうが、それにしても早すぎる気がする。

 そしてこの野菜がまた美味いんだよな!


「土の質はそこまで良くなかったのにここまで上手くなったんだから、万全の準備をして育てたら……ヤバい、考えただけで涎が出てきたぞ」


 考えるのは止めておこう。堆肥作りにはもう少し時間が掛かりそうだからな。

 というのも、ずっと森の中に引きこもっているせいで世界情勢が全くつかめなくなってしまった。

 今まではたまに立ち寄ってくれる行商人から情報を仕入れていたのだが、それすらもできなくなったのだからどうしようもない。

 勇者として戦うつもりはないが、勇者がいなくなったことで人界と魔界の均衡がどうなっているのか、その状況によっては俺のスローライフ生活に支障が出るようであれば何か対策を講じなければならないと考えていた。


「なあ、リリル」

「どうしたの?」


 そして、俺は情報を手に入れる方法についてリリルと相談することにした。


「魔人が人界の奥に向かうのって、結構命がけだったりするのか?」


 魔人は魔王城から離れれば離れる程に衰弱すると言っていた。ならば、人界に入ればそれこそ動けなくなるくらいの覚悟が必要なのかと思って聞いてみた。


「そこまでの危険というのはないわ」

「そうなのか?」

「えぇ。人界に入った時点で私の力はRくらいまで落ちているけど、そこからさらに落ちるということはないの」

「魔王も似たようなものなのか?」

「元の力が強い魔人ならここまで弱くなることはないわね。その、私はまだ修行中の身だったから」


 ふむ、であれば問題はないかな。


「リリル。実は、一番近くの都市に情報を仕入れに行こうと思っているんだが、行ってみないか?」

「えっ?」

「あー、まあ、魔王の娘を連れて人界を歩き回るなんてことはあまりしたくないんだが、一人にするよりかは一緒にいた方が安心かなって思ったんだ。もちろん、リリルが嫌なら残ってくれて構わないし、もし残るならツヴァイルも置いていく」

「ガウアウ!?」


 突然の置いてけぼりに驚いたのかツヴァイルは慌てたように俺の足にすり寄ってきた。


「まあ、俺一人だったら家を空けるのも一日だけだしすぐに帰ってこれるんだけど――」

「わ、私も行くわ!」

「ガウッ!」


 俺の言葉を聞き終わる前にリリルは同行を願い出てくれた。


「……いいのか? もしバレたら、危険に巻き込まれるかもしれないぞ?」

「ここに一人で残っていた方が危険だわ。人族からも襲われるだろうし、当然魔族からも襲われちゃうもの。それだったらスウェインが一緒の方がいいわよ」

「ガウガウッ!」

「もちろん、ツヴァイルもよ」

「ガウーッ!」


 なんだか最近は俺よりもリリルに懐いている気がするんだが気のせいだろうか。


「分かった。それじゃあ、リリルの足に合わせるから野営も考えて道具を作らないと――」

「あら、甘く見ないで欲しいわね」

「えっ?」

「衰弱していたのは出会った時のことよ。力は完全には戻らないけど、今なら狩りに出ている時のスウェインの速さにならついていけるんだから」


 狩りの時にはツヴァイルの速度に合わせていたのだが、その速度についていけるなら問題はないかもしれない。


「それなら、変わらず日帰りで帰ってこられるかもしれないな」

「でも、どうせだったら都市を満喫したいかなー、なんて思ってるけど?」

「お前なぁ。遊びに行くんじゃないんだぞ? それに俺の顔を覚えている奴がいたら大変なことに――」

「はいはい、分かりましたよー。用事を済ませたらすぐに帰る、これでいいんでしょー?」


 もちろんその通りなんだが……なんだろう、その言われ方だと無性に腹が立ってしまうんだが。

 いやいや、挑発に乗ってはダメだ。危険はなるべき回避して、安全第一で行動しないとな。


「もちろんだとも! よし、準備ができたら早速向かうぞ!」

「……うふふ、楽しみだわー」


 何やら企んでいる様子はあるが、俺は動じない。

 必要な情報を手に入れたら、さっさと戻ってくるんだからな――俺のスローライフの為に!

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